第19話 探偵、崩壊の原因を聞く

「じゃあ、ボス、今日はお先に失礼します」

と久保田は退社した。


 万華はとっくに御園婆さんの家に帰り、湘賢とフレリーも、俺が見つけてきた安アパートに帰った。


 商店街の、飲み屋の看板に明かりが灯り、良い匂いが事務所にも漂ってきている。


 俺は机の引き出しを開け、那須高原で撮った万華と俺の写真、そして、俺と和子の写真を眺めた。


 和子と死に別れてからの日々は、素っ気なく、ただ流れていた。それが万華との衝突で俺の人生は、再び色濃く、躍動に満ちた日々に変わった。


「和子、お転婆娘が現れて、お前と出会ったときのようなんだ」

と写真の中で笑っている和子に語りかけた。


 すると、突然、

「それは亡き奥方でっか?」

と声がし、慌てて引き出しを閉めた。


 よく考えると、聞き覚えのある声。

 椅子から立って、机の向こうを見ると白い猫が座っていた。尻尾が左右に揺れている。


 そして、音もなく机の上に飛び乗ると、

「こんばんは。奥方は、天女のような美人やったんやな」

と言う。


「ああ、どうも。ところでラッキー …… さん、随分長いこと喋らなかったですね」

「そら喋る必要が無かったさかい。さて、蓬莱のルート崩壊の原因があらまし分かったんや。それを知らせよかと思てな」


 ラッキーによると、蓬莱のルートは蓬莱石という石の力を利用して作られる。これまではルート崩壊したときに、石も壊れて無くなったと思っていたが、実はその石が盗まれてルートが崩壊したことが分かった。


「その蓬莱石あると、ルートが作れるのか?」

「ご明察や。もちろん他に色々必要やけど、少なくとも蓬莱石がないと、ルートは作れへんがな」


「とすると牛頭巨人は、盗んだ蓬莱石で作ったルートで転移させられたって事か」

「ワテもそうやと思うで。これはワテの推測やけど、実験をしたんやないかと思てる。蓬莱のルートは、彦星が牛頭巨人を見つけた時点では壊れていたはずや。そやから盗んだ蓬莱石で作ったルートの実験や」


「犯人は、蓬莱のルートに対抗してローコストキャリアーを作るわけじゃねぇよな」

「さすがやな。あながち間違うておらんやろ」


「えっ。そうなのか」

「普通は、神さんの意向を受けて、転生者や仙人は送られるんや」


「それが蓬莱の以外のルートが出来れば、それを作った奴は、神のごとく自由に、それこそなんでも転移、転生できると言う事か」

「そや。魔法のあらへん平和な世界に悪い魔法使いを送り込むやら、文明が発達してへん世界に、超文明兵器を落としてみるやら、それこそやりたい放題になるわな」


 確かにそれは驚異だ。


「なるほどな。じゃあ、一連の犯人は誰だ?」

「そこや、それこそ、名探偵 千野はんの出番やろ」


「おいおい、俺を持ち上げても、手がかりがなさ過ぎるぞ。これではベイカー・ストリートの名探偵でも解決できないぜ」


 ラッキーは手をなめ、顔を拭って、

「ああ、それから聖剣フォルーラーは、この日本に有ることが分かったんや。千野はんのところに湘賢が相談しに行くよって、よしなに頼みます。それが蓬莱石盗難犯の手がかりになるかも知れへんしな」


「なんで、日本にある事が分かるんだ?」

「聖剣フォルーラーは湘賢が作ったさかい。ほな、後は宜しゅう」


「えっ。おい。ラッキー」

と呼ぶと

ニャー

と答えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る