第22話 探偵 ギルマスになる

「ギルマス、ここで、この動く絵を見ていれば良いのだな」

とフレリーが聞いてきた。


「そうだ。この写真に写っている人が来たら教えてくれ」

と俺は万引きの容疑者が映っている数枚の写真を渡した。


 フレリーの言う動く絵とは、店内を撮影している防犯カメラの画像だ。今日はクエストの一環として、万引き犯の取り押さえをやることになっている。


 俺は、湘賢の願い通り、フレリーを臨時採用し、ギルドマスターになった。と言っても、やることは所長と社員の関係と変わらない。違うとすれば、月給ではなく歩合制と言うところか。


 そのフレリーだが、これまで不倫調査、盗聴器調査などの簡単なものをこなし、文句も言わずに良くやってくれた。


 冒険者の頃のクエストと言えば、魔物討伐だったが、ラノベの様なきれい事ではなく、血と汚物と泥まみれの汚い仕事だそうだ。特に臭いが酷い。それに比べれば、不倫の張り込みで3日くらいの徹夜など、楽な仕事になるらしい。 


 それから盗聴器の調査には、久保田について行った。久保田の持っている機械を見て、『魔法みたいだ』と、真面目に言ったらしい。まあ、俺も実は、久保田の妙な機械は、魔法と思っているところがある。


「ボス、フレリーさんって、テレビを見ても、スマホを見ても、車を見ても、何を見ても『魔法のようだ』って、言うですよ。ひょっとして組織に記憶を消されて、海に投げ出されたですかね」

と久保田が言ってきたときは、苦笑いして返すしかなかった。


 などと考えていると、フレリーが、

「ギルマス、彼奴ではないか」

と画面を指差して声をかけてきた。


「そうだ。あっ、品物を懐に入れたぞ。フレリーは出口に回れ、良いか、俺が指示するまで絶対に客に手を出すなよ。金を払わずに出口から、一歩、足を出したときが、取り押さえる時だからな」

と俺は念を押した。


 容疑者がレジに行った。カゴの品物を精算するが、懐のものは未精算だ。


 良し、出口に向かうぞ。

 自動ドアが開いた。

 一歩踏み出した。


「確保!」

と俺は声を上げた。


 フレリーは手はず通り、容疑者の前に立ち、手で制止した。暴力に訴えていない所は教えたとおりだ。


 俺も容疑者の後ろに近づくと、

「くそ、退け」

とフレリーの制止を振り切り走り出した。それをフレリーが追う。


「待て!」


 不味い、腰の屈んだ婆さんが、よろよろと杖をつきながら歩いている。


 犯人とぶつかるぞ!


 俺は、婆さんが跳ね飛ばされ、倒れることを思い浮かべていた。歳から考えて骨を折るかもしれん。


 しかし、犯人が婆さんにぶつかったと思った時、左手が少し前に出て、胸ぐらを掴み足を払って、引き倒してしまった。


 犯人は勢い余って、盛大にひっくり返り、気を失ったのか、倒れて動かない。


 そして、その婆さんは何事もなかったかの様に杖をついて、店の中に入ってきた。


 フレリーは、婆さんの横をすり抜け、犯人に駆け寄り、懐から万引きした品物を取り出して制圧した。


 俺は婆さんを心配して、駆け寄り、

「お怪我はありませんか」

と聞くと

「ウチは、何ともあらへん。気いつけてクエストこなしてや」

と言って杖をついて、店の奥へ入っていった。


   ◇ ◇ ◇


「フレリー、ご苦労様だ」

「いえ、師匠のお陰でしょう」

と言う。


 師匠? 万華のことか。婆さんが万華と気付いたらしいが、師匠と呼ぶのは何故だ?


「私は、師匠に教えを請うている」

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