第23話 万華の指南

「フレリー、もっとや、もっと強く。もっと早く、そうや」


「まだや、まだ。そう、そこを正確に、一気に突くんや」


「もっと、強く突っ込め、もっと早くや」


「もっと強く、ええなぁ、そうや、ええ。そこは優しく、そう」


「フレリー、勇者のくせに、この程度か?」


 ウチは、へたばってうつ伏せになっているフレリーの上に座り、言うたった。


「しっ、師匠は、激・し・す・ぎ・る」

と、フレリーは息も絶え絶えに声を絞り出した。


「フレリー、その言い方は、他の人読者さんから誤解を受けるやろ。剣の指南をして欲しい言うたんは、お前やど」


 原付免許の勉強をしているとき、フレリーが、

「剣のご指南をお願いしたい」

と言ってきたけん、

「ええよ、でも、剣に関しては、覚悟していや。交通法規の様に甘いことないで」

と答えたった。


 それでもと言うのでこうして、手伝っとるわけや。まあ、転生者は強いのに越したことはあらへんからな。


 そいで、フレリーの剣やけど、転生者にしては悪うはあらへん。せやけど、正確さに欠けるのが残念や。


 聖剣は、屁理屈が作った、まあ、切れるやろから、それが逆に仇になって、『たたき切る』の使い方に慣れてしもうているやろ。


「ええか、剣はとどのつまり、早さ、重さ、正確さや。あんたのは、早さ、重さはあるんやけど、正確さが足りてへん。狙った急所に当てるには、剣を繰り出す前に、使う筋肉の度合い、使うべき筋、タイミングは、全て決まってんのやで」


「ううう、分・か・り・ま・し・た」

とフレリーは苦しそうに応えた。


 なんや、そないに苦しそうにしたら、ウチの体重が重そうに聞こえるやないか。乙女に対して、失礼なやっちゃな。まあ、ええか。


「そんだけ、伸びとったら、十分、休んだやろ。さあ、続けていくで。よ、立てや」


   ◇ ◇ ◇


 カン、カン、カン


 フレリーと模造剣で打ち合っていると、人払いの結界の外から入ってくる奴がおる。


 湘賢や。


「なんや、オノレ、何しに来たんや」

「脳筋、ワテの勇者を虐めておったんやないやろな! 事と次第によっちゃ許さへんで」


「アホいうな。フレリーが剣の指南を受けたい言うから、教えておったんや。礼ぐらい言ったらどうや、屁理屈」

「むむむむ、えろう、お世話になりました。これでええやろ。それより、フレリーに話したいことがあるんや。 ‥‥‥ フレリー、千野殿の事務所にいや。脳筋は聞かせて欲しいというなら、聞かせんでもないけどな」


 どうせ同じアパートに帰るのやから、わざわざ事務所で話す必要はないやろ。それを事務所でちゅうことは、権さんにも聞かせる必要あるちゅうことやな。


 ちょい、胸くそわるいやけど、聞いたるか。


「ほっとけ。ウチも権さんの事務所に行く用事があるんや」

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