第25話 万華 作戦決行
俺達は、作戦会議から二日後、アラキタ倉庫にやって来た。
「着いたけどよ、衛星写真のとおりで、広い施設だな。殆ど森じゃねぇか」
と運転席から降りた早々、一人呟いてみた。
昨日、久保田が、アラキタ倉庫周辺の衛星写真を出してくれたのだ。東京ドーム10個分の敷地に倉庫がポツリポツリと立っている。爆発物などの誘爆を警戒しての配置だろう。今回、この中には聖剣があるはずだが。
ふとフレリーを見ると、凄い形相で門を睨み付けている。如何したんだ?
「魔王ガガットがいる」
と低い声で呟いた。
なぜ、そう思うのかは、俺には分からねぇが、確かに何か陰湿な感じはある。魔王ガガットを追いかけた執念が、魔王の存在を察知するのかも知れない。
「ギルマス、このクエストは危険だ。ギルマスが来てくれるのはありがたいが ……」
「心配するな、ジジイだが、俺も一応転生者だ。しかし、いきなりラスボスの城攻略かい。参ったね」
と答えると、俺達の両隣に仙人と天女が現れた。
「権さん、これを使ってみ。蓬莱からのプレゼントや」
とS&W M500の弾らしきものを渡された。
「おう、これは?」
「それは、仙術で作られた尽きない弾やで。それから織り姫姉ちゃんの肌着は着てるんやな」
「ああ、着ている」
「加齢臭、せえへんから、そうやと思とった」
「万華、お前な。まあいいや。さて、作戦通り行動するなら …… 」
「そりゃ、正面突破やろ」
と言うや否な、万華は正面ゲートと第2ゲートを一瞬で突破してしまった。
「あっ、脳筋、あいつ、ほんまにアホや。作戦が台無しやないか。
と言いながら、万華の後を追いかけた。
正面ゲートの警備のおっちゃんは、何が起きたのか理解できないでいる。
ただ、センサーは侵入者を捕らえたようだ。
<警告、警告、ここは、アラキタ社の私有地です。即刻退去してください>
と数カ国語で繰り返し、警告音が鳴り響いた。
◇ ◇ ◇
「おい、アホ脳筋、作戦めちゃくちゃやないか。
「分かってるで、第6倉庫やろ」
と万華が指差す。
湘賢は頬をピクとさせて、
「アホはアホなりに感がええやな」
と言った。
すると万華は、
「アホはおまえや。さっき権さんと落ち合う前に下見くらいしとったわ。ええか、ここの第2ゲートから向こうは武装集団が守っとる。そんなのが居っては、日本の警察は呼べへんやろ。つまりや、正面ゲートで、グズグズするよりも、第2ゲートまで、さっさと入った方が勝ちや」
と周囲を警戒しながら答えた。
そして、万華は組紐をほどき、
「権さん、来るで」
と低い声で注意を促した。
権蔵には何が来るのかよく分からなかったが、突然、光りの筋が空中を走った。
「湘賢、障壁や」
と万華が叫ぶと
「言われんでも、分かっとる」
と答え、払子を振って障壁を顕現させた。
万華は、権蔵達が障壁で守られているのと確認し、組紐を手から離した。その組紐は光りの発生した場所に飛んで行き、何かを次々と突き刺していく。
「なるほど、万華の言っていたレーザー銃に、光学迷彩スーツか」
権蔵はその光景を見て、敵の武装を理解した。そしてS&Wの銃口を光りの出てきた方に向け発砲する。
レーザー光と弾丸が交差する。
うめき声とともに空中から血が噴き出した。
権蔵が数発の弾丸を光の発生源に撃ち込んだとき、
「”警告! 直ぐに伏せてください”」
と頭の中で木霊した。
権蔵は、突然頭の中で聞こえた声に驚いたが咄嗟に伏せると、横にいたフレリーが、体をよじり何かを投げ飛ばした。その拍子で光学迷彩スーツが壊れたのか黒いスーツの特殊工作員が地面に転がった。敵は光学迷彩で姿を隠し近接攻撃を仕掛けてきたのだ。
「屁理屈、衝撃波を防御や」
と万華が叫ぶと、湘賢はまた払子を振り、権蔵とフレリーの周りに少し違う障壁を張った。
万華は一瞬にして鎧姿に変わり、ドンという音とともに空中高く飛び上がった。そして、もの凄い勢いで地上に激突した。衝撃波が周囲に広がり、音速に近い速度の小石が、残りの光学迷彩の男達を吹き飛ばした。
まさに鎧袖一触である。
そして、近未来装備の特殊部隊を殲滅した万華は、
「あまり、面ろうないな。次のダンジョン、行くで」
と言いながら、さっさと歩きだした。
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