第44話 万華 鈴鹿峠激闘(2)

 俺は、万華の話に聞き入ってしまった。よどみなく話し、辻褄が合っているのだから、作り話とは思えない。この記憶力は、天仙の修行の賜なのだろうか。


「それで、どないなるんや、小鈴ちゃんと田村丸ちゃん」

「そやな、まあ、それはもう少し後や」


   ◇ ◇ ◇


「行け、人間共を食い殺せ」

と大嶽丸は鬼たちをけしかけた。


 その鬼達が賊と官軍が乱戦している場所に到達しようとしたその時、屋敷の扉が開き一陣の風が吹き出した。


 そして、坂上田村丸の横に

「田村丸様、お助け申し上げます」

と立烏帽子に狩衣を着た女が立っていた。


 その女は顕明連を持ち、大通連・小通連が周りを守る。賊や鬼たちが打ち込んでも2振りの剣が素早く弾き返し、顕明が仕留めていった。もの凄い早さに賊や官軍の兵からは、千の腕がある千手観音がいるように見えた。


「お前は誰だ?」

と鬼の一人が聞いた。


 持っているのは明らかに三明の剣。しかし、その力は頭である大嶽丸が持っていたときより遙かに強力に思えた。


「私は、鈴鹿御前。鬼を退治する者だ」

と小鈴は声を上げた。


 それを聞いた大嶽丸は、

「お前は鈴鹿御前ではない。なぜ三明の剣を持っているのだ。さては鈴鹿御前を殺し、その剣を奪ったか。ええい、鬼共、男を殺して、その女を連れてこい」

と大声で号令した。


 鬼たちは、大嶽丸の命令に応え、官軍を追うの止めて2人に迫った。しかし、三明の剣に守られた鈴鹿御前に一太刀も浴びせることができず、黒漆剣の剣気から逃れられる鬼はなく、悉く返り討ちにあった。


 大嶽丸は歯ぎしりをし、左右に控えたひときわ大きな赤鬼と青鬼に命じて2人を襲わせた。この大鬼は法力を使い、火を吐き、氷を降らせ、大地を覆す。坂上田村丸は賢明に小鈴を庇うが、2人に火炎が襲いかかる。間一髪の所を湘賢の障壁が現れて跳ね返した。

 

 その瞬間をついて、2人は大鬼から離れる。


 それを追う大鬼。


 その時、上空から光りの球が2人と大鬼の間に激突した。その衝撃波と突風と瓦礫に小さな鬼を吹き飛び、大鬼達はよろめいた。


 濛々と立ちこめた砂埃が晴れると、そこには、唐風の白銀の鎧に身を包み、長い槍を持った万華が立っていた。それを見た官軍の兵は毘沙門天の降臨と勘違いし祈り始めた。


「万華やで。此奴らはウチが殺る」

と小鈴と坂上田村丸に告げた。


 赤鬼が、万華めがけて火炎を吹いたが、万華は避けもせず、そのまま火炎に突っ込んだ。この時、赤鬼は蛾のように自分から炎に飛び込んだ万華を仕留めたと思った。しかし自分が吐いた火炎の中から、何かが飛び出し、拳が赤鬼の顔にのめり込んで絶命した。赤鬼が後ろに倒れると、左拳を赤鬼の顔に叩き込んだ万華が空中に止まっていた。


 それを見た青鬼は、氷を降らし、冷気の息を吹きかけ万物を凍らせる。万華の顔や鎧に霜が降りて凍り付いた。青鬼は、凍り付いた万華を瑠璃の杯のように割ってしまおうと金棒を振り上げた。


 青鬼が振りかぶった金棒を、凍った万華の頭上に振り落とそうとしたとき、火炎が大蛇のように万華の周り始め氷を溶かした。


「おい、青いの。三昧真火で焼き殺してもええけどな。それでは面ろうないけん、槍で仕留めてやる」


 万華は、青鬼に急接近して、槍で足を払った。倒れる青鬼も、何とか体制を立て直し金棒を横に薙いだ。それを槍で受け、棍棒の方向を変えて青鬼に蹴りを入れた。

 再びよろめく、青鬼。そこに槍の追撃。青鬼は万華の速度について行けなくなる。そして、喉から脳天に掛けて、槍が突き刺さり、声も上げることなく絶命した。


 それを見た、周りの鬼たちは狼狽えた。無謀にも万華に挑む奴も居れば逃げ出す奴も出てくる。しかし、挑む者は、万華の槍に触れる前に消え去り、逃げる者もその射程から逃れられなかった。


「ニヒィ、逃げんなよ」

と万華は、人殺しの目に戮者の笑みを浮かべて、鬼たちを追いかけ回した。


 槍を横に薙げば、一町(110m)ほどの長さになって足を払い、槍を振り下ろせば、やはり一町ほどの衝撃波で潰して行く。飛び上がり、地面を打てば、衝撃波と瓦礫で鬼たちの体はバラバラになった。


 そして万華は、大嶽丸を指さし、

「おい、大嶽丸。何時まで、部下を見殺しにして引っ込んで居るんや?」

と挑発した。

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