第43話 万華 鈴鹿峠激闘(1)
「万華、おまけしすぎやん」
とかぐや姫は、少し驚いた声を上げた。
「そうやな、後になって考えてみると、勿体ないことしたかもしれんな」
と万華は腕を組んで、眉をひそめた。
1500年前の話だろ、今頃、そう言うかな。俺には、この感覚はよく分からない。兎に角、時間の感覚が天女達と合わないと最近、思ってきた。
「そや、権さん、こんなのは4000年間でこれ一回だけやで。屁理屈との勝負のためや。本来ウチの体は、そないに安うはないんやで」
と宝物庫に男を連れ込んで遊んでいる天女が、宣わりました。
◇ ◇ ◇
「屁理屈、見てみい三明の剣や。ウチの勝ちや。暴力で脅し取ってないことは、忍び込めば分かるやろ。大嶽丸は未だにウチに『ほ』の字やろな。さあ、土下座せい」
「うっ。うーーーーん」
湘賢は、眉間に皺を寄せて、払子を握りしめている。
「ほれほれ、
万華が湘賢を前に腰に両腕をあてて、土下座を迫っている。端から見ると姉が弟を虐めているように見えた。しかし、湘賢の顔がいきなり晴れた。
「はいはい、良うできた」
と湘賢は言った。
「なんや、それ、負けたんやから、約束通り土下座せい」
「なんでや。ワテが土下座せんとあかんのや。ワテが『お前は脳筋で暴力にしか訴えられやろ』と言うたら、勝手にハニートラップ仕掛けたやろ。その努力は認めるけんど、成功したら土下座するなど、一言も言ってへんで」
「なに、どの口がそれを言う」
「脳筋が言ったのは、『大嶽丸を倒すのを手伝って欲しいなら土下座しろ』と言ったやろ。せやから、ハニートラップで三明の剣を持ってきても土下座する筋合いはあらへん。まあ、努力くらいは認めたる」
「なぁにー、お前の性根は腐っとる。小鈴、この剣で練習しておき。ウチはこいつを叩き直すけん」
と三明の剣を小鈴に渡し、また、2人は山の中に飛んで行った。
空気が響き、地鳴りがして、庵が揺れた。
◇ ◇ ◇
小鈴と万華は、鈴鹿峠近くの屋敷に陣を敷いた。即席では有るが、湘賢が仙術を使って建造したため、そこらの砦よりも頑丈な物になった。
そこに、坂上田村丸率いる官軍が、屋敷を攻撃する形で対峙している。
そして、
「弓を引け、各自適当に弓を打ち込め」
と佐々木が号令を掛ける。
弓は屋敷の壁や近くの地面に刺さっていく。坂上田村丸軍が屋敷を攻めているように見せているだけだ。
一方、屋敷の物見から見ていた万華は、官軍の後に迫る兵気を見た。
「多いやん。10万位やな。大嶽丸の奴、仰山、兵を集めたようや。田村丸、ここで兵を抑えられるかどうかで今後が決まるで。気張や」
当然、官軍にも大嶽丸の10万の兵の情報は伝わっている。この恐怖に逃げ出す兵を抑えられるかは、将としての器にかかっている。
「小鈴、三明の剣、使い方覚えたか?」
「姉さん、大丈夫。田村丸様とみっちり練習しました」
「あん …… そうけ」
官軍の真後ろに大嶽丸の軍が現れた。山賊、盗賊もいるが、狼や得体の知れない奴、それに角の生えた鬼たちが多い。
官軍は、一瞬、動揺したが、田村丸の檄が飛び、大嶽丸に向かう陣形に変わった。
「我こそは、近衛少将 坂上田村丸なり。勅命により、大嶽丸 貴様を討つ。いざ尋常に勝負!」
と単騎で前に出て『黒漆剣』を抜き言上した。
それを見た万華は、少し感心した。兵達を掌握し、一兵の脱落者もなく速やかな陣形変更。そして単騎で挑む胆力。こいつは大業なす器であると直感した。
それに対して大嶽丸は、
「一騎打ちなど、俺はしないぜ。人間の兵を追い立てろ」
と号令した。
山賊や盗賊は鬼に追い立てられ、突撃するだけの死に兵として使われた。
田村丸は、慌てることなく、『黒漆剣』を振り、後ろに控えた佐々木に合図を送った。
弓隊が弓を引き、ギリギリまで待つ。そして、放った。
数百本の弓が、山なりに飛行して、盗賊・山賊に突き刺さった。しかしそれを掻い潜った賊が田村丸他、官軍とぶつかる。
辺りは乱戦状態になる。田村丸は『黒漆剣』を馬上から振るい、すがる兵を切り捨てた。遠くの賊が弓を田村丸めがけて放つ。あわや喉に立つかというとき、何かの障壁が現れ落とされた。
大嶽丸は、弓の一本が落ちたことなど気にも止めなかった。
「官軍の行き場所はない。鬼共進め、敵味方関係なく、人間共を全て食い殺せ」
と大嶽丸は、鬼たちに命じた。
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