お伽話 あれこれ
新説 竹取物語
第30話 探偵 かぐや姫を頼まれる
『今はとて天の羽衣着る折ぞ 君を哀れと思ひ知りぬる』
◇ ◇ ◇
「かぐや姫、時は満ちました。地上の子たちにお別れを」
と天界の勅使は、かぐや姫に声をかけた。
「「「「弓を射かけよ。かぐや姫をなんとしてでも取り戻すのだ!」」」」
「いけません。地上の子たちよ。そのような事をしては行けません」
とお付きの天女が地上の武士たちに警告した。
天界の勅使は、少し笑みを浮かべ、口に手を当てて、ふーっと息を吹きかけた。すると、武士たちは、持っていた弓や刀を地に落とし、ガクリと眠りについた。
「かぐや、かぐや、かぐや、行かないでおくれ」
「お爺さん、お婆さん。これまで、かぐやを育てていただき有り難う御座いました。どうか何時までも、お元気で」
◇ ◇ ◇
「なぁ、かぐや、これでええんやな」
「ええで。お爺はんとお婆はんは、かぐやにようしてくれたさかい、ちょい離れがたいけどなぁ。宝物も全て見つかったさかい、潮時どすな。そやけど、万華の天界の勅使、
「
「了解どす」
◇ ◇ ◇
——— 現代 …… スバル360が、ヘッドライトを点けて、京都に向けて走る ———
「🎶京都〜、🎶大原〜、🎶三千院〜、るるる〜」
俺は、浮気調査で京都までやって来た。依頼人の旦那が出張したときの素行の調査を行ったがビンゴだった。まあ、奥さんには初犯だから、今回は許してやりなよと助言するつもりだ。
さて、今日は一泊して帰ろう。仕事の終わりに一杯飲んでもバチはあたらねぇだろう。
などと、今日泊まる宿に急いでいると、突然、助手席に白い物が現れた。
「うわ、ビックリした。ラッキー、急に現れるなよ」
「えろう、驚かして済んまへん。大変、申し訳あらへんが、ちょい、そっちの道に入ってくれまへんか? 『かぐや』ちゅうもんが、道に迷うてるさかい、拾うて話を聞いたって欲しいんや」
「かぐや? 織り姫の次はかぐや姫か?」
「そうです」
しゃあない。かぐや姫は、お淑やかな女性なのだろうか。万華はあの通り脳筋だろ、織り姫は、ちょっと抜けた天然だった。少し期待したい。
「わかった。こっちだな」
「えろう、すんまへん。万華は呼んどきましたさかい、ほな、ワテはまた。後はよろしゅう」
「えっ、おい、ラッキー?」
俺は空席になった助手席に向かって呼びかけていた。毎度、あの猫の神出鬼没ぷりは驚かされる。現れるときも、去るときも、音も光りも何もない。
俺は左に折れて、ラッキーが言った道に入っていった。ヘッドライトに照らされた周りは竹林だ。かぐや姫と言えば、竹か。
「竹林が明るいぞ。あの人か」
俺は竹林に通じる道で光輝く女性を見つけた。服装が天女の羽衣に領巾だから、どこから見ても、目的の女性だろう。
俺はスバルを横につけて、助手席の窓のハンドルを回した。スバルはパワーウィンドウじゃねえから大変だぜ。
「あのー、かぐや姫さんですか? 千野と申します」
「えっ。あんたは誰や。なんで、かぐやの名前を知ってるんや? まさか、禁裏の武士か?」
禁裏? 皇居のことか。
「あっ、万華の知り合いです」
「えー、万華の知り合いなんや。そら良かった。なんや、昔、居った都とえらい変わってまい、困ったところどした。それで万華は何処?」
「えーっと、万華は …… と」
さっきラッキーが万華を呼んだと言っていたはずだが、何と言おうか考えた。すると、スバルの天上にドンと何かが乗った音がした。
「キャー、かぐや、久しぶりやん。万華やで」
◇ ◇ ◇
万華が、かぐや姫に俺の事を簡単に紹介して、今、2人は後部座席で話し込んでいる。
「万華、なんや、この狭い乗り物は牛車より、狭いやん。牛車買えんのか?」
「せやな、もっとでっかい車があるやけど、権さんの安月給じゃ買えんのやろ」
「そうか、千野はんは牛車も持てぬ平民やったのか。着とるもんも変やし」
万華、大きなお世話だ。それにかぐや姫も、牛車って。どうもかぐや姫は、平安時代の知識しかもっていないようだ。
「ところで、万華は、かぐやが下界に降りてきたこと、何で、知ってるん?」
「ラッキーが教えてくれたで。おまえ、また失敗をやらかしたんやろ」
「うへー、もうばれてるんか。また主上に怒られる。どないしよ」
「しゃないやんけ。で今回は何をやらかしたんや」
「蓬莱の玉の枝を無くした」
「またか。今回は1つだけか?」
「1つだけや。虫干しするのに他の平行世界に送ったんや。そしたら、向こうから届いてへんと連絡があって、調べたら、この第三世界に落ちたらしいぃやと。かぐやな、宛先を間違えたんか分からへんのやけど、それを探しに密かに降りてきたんや」
「ああ、それなら、怒られへんと思うで。それは事故や」
「そうなんや。それなら、心が軽うなった」
俺は、運転しながら聞いていたが、俺が知っている竹取物語の話と、ちょっと違う所が気になった。蓬莱の玉の枝は、何とかと言う公家が作らせた偽物だったはず。
「ところで、お二人さん、ちょっと良いかな。俺の知っている竹取物語と、ちょっとちがうのだけど。本当は如何なんだ?」
「ああ、あれは、かぐやが脚色したんどす。以外とええやろう?」
とかぐや姫が答えた。
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