第31話 探偵 裏話を聞く

「話はな、お爺さんと出会う前から始まるんや」


——— 昔々、天界に、かぐや姫という、見目麗しい天女がおりました。そのかぐや姫は、天界の宝物庫で、何億という宝の管理をやっておりました。それはそれは真面目な勤務ぶりに、主上も感心しておりました。


「えー、『見目麗しい』は、まあ、ええけど、『真面目な勤務ぶり』は、ちゃうやん。いっつも宝物庫で居眠りしとったやんけ」

と万華が口を挟んだ。


「万華、そないな事あらへんがな。おまえが、宝物庫によく男を引っ張り込んで、賭け麻雀をしていたこと知っとるやで。せやから居眠りしとる訳ではないで。えーっとあれは、確か ……」


「あああああああ、実名はええ。個人情報や。せやけど、かぐやも面子の一人やったやないか」

と万華は実名公開を妨害して、少し反撃する。


 すると、かぐや姫は、

「ほほほほほっ 何の事やろか。記憶にありまへんな。話、続けます」

としらばっくれた。


——— ある日、かぐや姫は、宝物を新しい倉庫に移す作業をしておりました。そして、5つの宝物、蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、仏さんの御石の鉢、龍の首の珠、燕の子安貝を台車に乗せて移動しているときに、つい美しい花々に見とれてしまい、その宝物を地上に落としてしまいました。


「ちゃうやろ。男の仙人に見とれて、足踏み外したやんか」

と、また、万華が口を挟んだ。


「おや、美しい花々にしといたのに、ええのんか? 実は万華が男の仙人と、むふふふなことしとったような ……」

「美しい花々が正解やな」


 万華とかぐや姫は、悪友の関係だな。間違いない。こいつら2人でどんな悪行をしてきたのだろうな。俺は車のルームミラー越しに万華を見た。


「なんや、その目は。権さん、ウチらは、いたって清純な天女やで。ちゃんと前見て運転し」

「あっそ」


 かぐや姫の話はつづいた。


———宝物を落としてしまったことを、主上は酷く落胆され、かぐや姫に取ってきて欲しいと頼んで来ました。


「あんな、かぐや。創作するの大概にせえや。宝物を落としたお前に、主上が頼む訳ないやろ。もの凄く怒られ、『探し出すまで、戻ってくるな』と厳命されたんが正解やろが」

「まあ、そうとも言う。大して変わりおまへん」

「大違いや」


——— 主上に怒られたかぐや姫は、宝物を探すために地上に降り立ちました。美しいままで降り立つと天女と分かってしまうので、竹の中に入って、地上の様子を伺っておりました。すると優しいお爺さんに見つけられて、竹から取り出されました。


「まあ、少し、細かい所に不満もあるがええやろ」

と何故か万華が許可をだす。


——— その優しいお爺さんとお婆さんの家に引き取られたかぐや姫は、一夜にして大人の女性に成長しました。そして、宝物を探すために5人の式神さんを召喚し、それらに宝物を探させました。


「ここは、かぐやが、大きく創作したとこどすなぁ。地上のお話では、美しいかぐやに言い寄ってきた5人の公達に無理難題を吹っかけたことにしたのどすえ。まあ、実際、沢山の人が言い寄ってきたさかい。それからな、ここのかぐや姫ってちょっと意地悪やろ。万華がモデルなんや」


「何、言っとんのや。ウチは何時も優しいやろが」


「えっ」


 俺は、口を滑らしてしまった。ルームミラーを見ないようにした。


——— そして、5人の式神さんは、それぞれの任務を果たし宝物を見つけてきました。宝物も揃ったし、いざ天界に帰ろうかと思っていたら、時の帝が、かぐや姫を一目見たいと言い始めました。地上の男に興味は無かったかぐや姫でしたが、帝くらいは見ておいてもバチはあたらないと考え、デートすることにしました。


「地上のお話では、5つの宝物は偽物やったり、無かったりしたけど。これは天界の宝物が地上にあったと噂が立つのも不味いと思ったんや。そやから、あらへんかった事にしたんどす」


——— 地上の帝は、まあままでしたが、寿命という意味で無理かなと思いました。それに宝物が、地上で害を与えないか心配の主上に怒られるのは嫌なので、かぐや姫は天界に帰ろうと思いました。ただ、パッと消えてしまうのは何か味気ないので、帝のためにも一芝居打とうと思いました。しかし、一人では良い案が浮かばないので、先に地上に来て遊んでいた親友の万華に打ち明けました。


「誰が、遊んどんのや。大嶽丸を退治した後の事後処理でおったんや」

「そうなの、ほな、そう言うことにしときまひょ」


——— 親友の万華は、天界から、かぐや姫に迎えがやって来て、帰らざるおえないと言う事にしたらどうだ? と提案してきました。ただ、天界は地上の人に見えないので、月からの使者としました。これなら、地上の人は月を見て、かぐや姫に思いを寄せることができます。そして、どうせなら、至尊の方の勅使がお迎えに来る方が、地上の帝の面子を保つことができると考え、万華が至尊の方に許可を得て、勅使に変化することにしました。


「それでな、色々あって、かぐやな、晴れて天界に戻ったどす」


——— 天界に戻ったかぐや姫は、宝物を無事に持ち替えた功績により、主上から労いの言葉を貰い、2階級特進を果たしました。


 すると、また、万華が

「2階級特進には違いあらへんけどな、宝物を無うした時に、懲罰くらって2階級下がったやんけ。そやから、前と同じやな」


   ◇ ◇ ◇


「”今日明け方、鈴鹿峠の裏山で、記憶喪失になったと見られる男女4人が発見されました。4人は3日前から行方不明で、家族から捜索願が出されていました。特に外傷はなく、事件と事故の両面で警察が捜査しているところです。つぎのニュースに ……”」

——— スバルのラジオが小さな音で告げていた ———


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