第32話 万華 京都見物
「ひえー、これが現代の京どすか。昔とはおおちがいやな。さすが日の本の中心や」
俺はスバルをコインパーキングに駐めて、3人で繁華街を歩いた。かぐや姫は最早、お
「いや、現代の日本の中心は、東京だ。もっと東。武蔵国と言えば分かるかな」
「なんと、武蔵かえ。あんな草深き田舎が中心地なんや。信じられへん。それにしても牛車が全然おらへんな」
「牛車はもう走っていないぜ。その代わり車に乗る」
かぐや姫は、なぜだか牛車にこだわる。
「そうなんや。せやけど、やっぱり、千野はんの『車』は小さいやん」
「良いんだよ。俺はあのスバルが好きなんだから。ところで、2人は飯、食わねぇだよな」
「せや、ウチもかぐやも食べへんで」
「じゃあ、2人は京都見物でもしてくれ。ちょっと食べてくるから」
「地上の人は難儀やな。食べなぁ、生きていけんし、食べたら、ほれ出すやろ」
とかぐや姫が、鼻をつまんで俺に向かって話しかけてきた。
「いや、俺にしてみれば、美味い食べ物も、美味い酒も飲めない方が、人生の2/3を損しているように思うぜ」
「そう言うもんでしゃろか」
「地上の人は、人生が短いけん、短い間に色々と楽しまないといけんのやろ」
こればっかりは、天女達と折り合わないだろうと思った。
俺達は一旦別れて行動した。
◇ ◇ ◇
ウチとかぐやで京都見物しとったら、慣れ慣れしく肩に手を回してきた男がいた。
「ねえ、ねえ、僕たちさ、東京から来たんだけど、君たち地元の子でしょ。この辺りを案内してくれないかな」
ウチに手を回してきた男と、かぐやの前でクネクネしている男、それに後ろに一人。
「へー、そうなんや。せやけど、ウチらも、地元民とちゃうで。なあ、かぐや」
とウチが答えた。
「君、かぐやって言うだ。あのかぐや姫と同じだね。どうかな、カラオケ行って遊ばない?」
とクネ男がポケットに手を突っ込んで喋りかけている。
すると、かぐやは
「カラオケって、何どすか?」
と返した。
「へー、冗談でしょう? 今時カラオケを知らないなんて、ないよね〜」
とクネクネしている。
「いや、知らんのよ」
とかぐやが食い下がる。
「歌をうたうところだよ」
「歌。それなら、ウチも得意どすえで。とっておきのは、やはりあれや、『今はとて天の羽衣着る折ぞ 君を哀れと思ひ知りぬる』やな」
と真顔で答えた。
「えー、何それ」
「知らんのか! 学ないな〜」
とまあ、かぐやは、クネ男と話し込んでいる。しかし、こいつら、ウチらをカラオケに誘って、何かしようって魂胆は見え見えやな。如何するか。最近ご無沙汰やから、つきおうてもええけんどな、権さん待っとるけんな。
打ちのめしても、ええんやけど、警察さんがやってくるのも厄介やし。そうや、あの手で行こう。
「済まへんが、今日は止めとくわ。この後、大阪蓬莱組の組長と約束があるけん。それとも、ウチらを連れ出してくれるんやろか?」
とウチの肩に手をかけている男に話しかけた。
「えっ。組、長 …… 嘘でしょ?」
この男は得心が行っていないようやな。なら、幻術みせたるか。
「ああ、若頭の藤堂さん、こっちやで、万華やで」
と道の反対側に向かって手を振った。
すると、かぐやも心得たもので、
「キャー、藤堂さんや。元気〜」
と話を合わせた。
流石や、流石、親友歴4000年のかぐやは、ウチと息がぴったしやで。
もちろん、ここにいる自称やさ男達には、反対側の道にその筋の者が仰山居るように見えてる。
すると、ウチの肩に腕を回していた男が、さっと手を引いた。かぐやの前でクネクネしていた男は直立して、後ろの男は逃げ腰や。
そこへ前方から、権さんがやって来たやんか。権さんナイスタイミングやで。
「権さんこっちやで。今、行こうとしてたんやけどな、この男の子達がカラオケに行こうって、しつこいんや、如何したらええかな?」
と権さんにふった。
それを聞いた権さんは、両手をポケットに入れて、
「おい、お若いの。止めた方が良いと思うぞ。お前ら命が幾つあっても足りないぜ」
と眉をひそめて答えた。
権さんの言い方、ちょっと引っかかるもんがあるやけど、今のシーンにはぴったりやな。
すると、やさ男は、
「いえ、僕たちは別に …… いえ、大丈夫です」
と行って、走って逃げてしまった。
「くくくく、くーーーーー、あっ、ハハハハハ。もう笑いが止まらん。権さん、ウチが幻術使わんでも、怖がられてるやんけ。くーーーくく、ハハハ」
「どう言うことだ? 万華。お前何をしたんだ?」
「なあなあ、万華〜、カラオケって何や? なあ〜、教えて〜な」
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