後日談 <閑話>

「権さん、これ、織り姫姉ちゃんから預かってきたで」

と万華が俺に何か布のような物を差し出してきた。


「ん? 何だ? 肌着か?」

「こないだのお礼やて」

と言った後、俺の横に忍び寄って、小声で

「それと、ホ・テ・ル・だ・い」


 そうだよ。商売柄、見知った業者もいるから、そこを紹介したけど、目が飛び出る請求がきやがった。


 すると、万華は真顔にもどり、

「織り姫姉ちゃんが織った布で出来てるさかい、暑いときは涼しゅう、寒いときはぬくい、オールシーズ着用可能。それに弾丸も通さへん優れもんやで。もっとも凄いのは脱臭効果や。加齢臭もバッチリ抑えられるで」


 えっ、俺、加齢臭する? つい、鼻から息を大きく吸い込んでみた。弾丸を弾くよりも気になる。


「どうしたんや?」

と万華は、ニタニタしながら聞いてきた。


「いや、何でもない」

と俺は椅子に座り直した。


「そや、これな、一応。保護者さまへ」

と言いながら、鞄から成績表を出してきた。


 国語 A、数学 A、物理 A、日本史 A、……体育 A、家庭科 C


「凄いな。でも、家庭科だけC。まあ、あの花じゃぁな」

「じゃかあしい。余計なこと言うな」


「それで、進路は如何するんだ?」

「そのまま仙聖学園大学に進学にしといた。何時まで、ここにおるか分からんけどな」

と万華の顔に一瞬、寂しさが過った。


「せや、外に看板かけといだで。後で見てや。ほな、遊びにいこ」

と言葉を残し、何処かへ行った。俺は、その時は看板の事を聞き流していた。


   ◇ ◇ ◇


「おい、久保田、新規依頼者の来所予定が無かったか?」

「有ったはずですが、来ませんね」

「まあ、この商売、突然キャンセルは多いから良いけどな」


「事務所が分からないのかな。ちょっと見てきますね」

と久保田が事務所の外に人がいないか見に行った。


すると、

「あー、ボス、こんな看板がかかってますよ」

と久保田が大きな声で叫んだ。


 俺は、呼ばれるままに入り口の所に行って、ギョッとした。そこには厚さ5cm、人の長け程はあろうかと思う黒塗りの板に、金文字で


『大阪蓬莱組 東京分室』


と書かれた看板が掲げられている。これじゃ依頼者は帰ってしまうだろう。


「万華め!」

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