ファンタージーの仕組み
第14話 探偵 事件を追う
「魔王 ガガット・ガレイ ここで貴様も終わりだ」
「何を、たかが人間の分際で、儂を倒せると思っているのか? 今度こそ、ここで終わりだ! 最終奥義の『空間極小』を受けてみよ」
「くそ、聖剣フォルーラーよ! 魔王に届け!」
「があああああああああぁぁぁぁぁ」
「”『空間極小』の発動を検知しました。勇者を強制転送します”」
俺は、魔王討伐に成功したのか。この世界に生まれ、長い時間を掛けてスキルを習得して、Lv100に到達した。そして、今日、艱難辛苦を乗り越えて、やっと魔王にたどり着いた。
「コンシェルジュよ、答えてくれ。俺は失敗したのか?」
「”魔王の死亡は分かりません。…… あれ? ……”」
「どうした? コンシェルジュ?」
◇ ◇ ◇
「禄念御組の資金状況他、分かるところは以上です」
と久保田が調査の報告をしてくれた。
それによると、
千葉の組長宅の購入は4年前。これは、妲己がこの世界に戻ってきた頃に一致する。そして、その時期から組員も急増したようだ。取引が多いのは、光度興産とアルタ貿易。いずれも国際的な兵器会社4Thワールドカンパニーと関係が深いと噂されている。
おいおい、何か話が胡散臭くなってきたぞ。4Thワールドカンパニーと言えば、その日本代理店が政治家への贈賄事件で新聞を賑わしているじゃねぇか。こりゃ貧乏探偵事務所じゃ手に負えねぇな。
「久保田、禄念御組の書類は焼却しろ、シュレッターじゃ駄目だからな。ああPCの記録も消せ。完全消却だぞ」
と注意しておいた。
「分かりました。ところでボス、見てください。この動画」
と久保田が呼ぶのでディスプレイの砦に行った。久保田が見せたかったのは銀行強盗の動画らしい。
「銀行強盗だろ?」
と良くある防犯カメラの動画だと思った。
「ただの強盗じゃありませんよ。ほら強盗犯の一人が持っている物、変でしょう?」
と久保田は、該当するところで止めてくれた。
そこには杖のようなものから光りが出て、何かをぶっ飛ばしたところが映っていた。
場所は渋谷、白昼堂々と5人で押し入り、銃で脅して行員と客を追い出した。その後、何らかの武器で銀行の壁と金庫の扉を破壊、中にあった現金1億円を強奪。通報で駆けつけた警官をその武器で惨殺した。現在、指名手配中。武器を持った首謀者は片貫 造次 28歳。
こいつ、新宿を根城にしたチンピラ集団のリーダーだ。あの武器を何処で手に入れたんだ?
「久保田、ちょっと出る。この片貫 造次のことで何か情報が有ったら連絡してくれ」
◇ ◇ ◇
「渋谷区某所、満留閥銀行。まだ立ち入り禁止か。昔の手帳はねぇしな」
道を挟んだ向かいのビル影から銀行を伺っていると、足下に猫がやって来た。
「ラッキーが、ここに居ると言う事は」
「やあ、権さん、こんな所で会うなんて奇遇やな」
「やあ、万華、ショッピングか?」
「そんなとこや」
ラッキーは俺が行く先々で、何処からともなく現れる。それは扉も窓も閉まった部屋の中でもだ。そして、こうやって、しばしば万華を呼ぶのだ。どういう仕組みなのかは考えないことにした。
「ああ、万華。魔法具らしき物を使った強奪事件があそこの銀行であった。犯人の首謀者は、…… 」
「片貫 造次 やな。久保田が教えてくれたで。現場に入りたいんか?」
「ああ、まあぁな」
「まかしとき」
と言葉を聞いた直後に振り向くと、そこには中年の男の警官がいた。
「ちょっと、交代してくる」
警官に化けた万華は、横断歩道を渡り、入り口に立っている警官と話し始めた。そして、お互いに敬礼をして、万華が化けた警官に交代した。
「おいおい、これは驚いたね」
と俺はつい呟いた。
俺も、銀行の入り口に行くと、今度は幻術を使って別の警官が立っているように見せかけ中に入った。
銀行の壁や金庫の扉は、巨大な手でつかみ取られた感じだ。火災の跡は全く無い。
「熊手術みたいやな」
「熊手?」
「魔力で作るロボットアームの様なものやで。怪力で握りつぶしたりできるんや。異世界じゃ、ドラゴンの耳かきやで」
「ドラゴンの?」
と聞き直すと、万華はニタニタしている。
俺は、万華の冗談を振り払って、壊れた金庫の扉を見ていると、
「権さん、片貫ってどんな奴や?」
「チンピラのリーダーだ。碌でもない奴だな」
「またやるかな」
「俺の感だが、また犯行に及ぶ可能性が高いな。味を占めただろうから」
「ふーん。魔法具は、相応の力があらへん者が使うと、段々と使う誘惑に支配されるんや。使うてるつもりが、道具に使われるんやで」
ブー・ブー・ブー
スマホが久保田からの着信を告げている。
「千野だ」
「”ボス、今、入ったニュースですが、片貫が、今度は横浜で銀行強盗です。渋谷より大騒動ですね”」
「と言うと?」
「”どっかの国の兵器なんですかね。ロボットアームを使って、車を投げ飛ばすし、人を潰すし、これはテロですよ”」
「分かった。俺も移動する」
と言ってスマホを切った。
俺は万華の方を向いて、
「悪い予感が当たった」
と言った。
◇ ◇ ◇
「なんだこれは?」
万華は先に飛んで行き、俺はスバルを飛ばして今着いた所だ。ここは、まるで戦場だった。
数十台の車はひっくり返り、アスファルトの道はえぐられ、道に面したビルの窓ガラスは悉く割れている。人だったと思われる肉片も散らばっている。
「万華! 何処だ? 」
万華は先に着いているはずだが、返事がない。
ラッキーは先を行き、時々振り返りニャーと鳴く。俺を先導しているようだ。進む程に被害が大きい。
ガサ
と瓦礫の山から音がした。俺は腰のS&Wを抜き、警戒する。
「権さん、手を貸してぇな」
と万華の声がした。
そこには、何トンあるのか分からない瓦礫を支えている万華がいた。そして万華の足には、恐怖に言葉を失った子供がしがみ付いていた。
「子供を早う」
と万華が言う。
俺は、べそを掻いている子供を連れだした。そして、それを確認した万華は、
「ちょい離れてぇな」
と言った。
俺は3人を連れて離れると、ドンと音がし、万華が俺の横に立った。瓦礫の山は崩れ、もうもうと埃が舞っている。
「万華、大丈夫か? これは一体 …… 」
俺は万華と片貫が、闘った後だと思ったが、
「片貫の他にもおった」
と万華は答えた。
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