第15話 万華 襲撃を受ける
権さんより先に来てみれば、街には煙が上がり車が横倒しになってるやんけ。何人か血ぃ流して倒れてるようや。
犯人の片貫は叫びながら、熊手で掴んだ女を前に出しとる。もう何を言っとるか分からへん。
周りの警察は銃を抜いとるけど、為す術無しといった所やな。ようみると、周りには、肉の塊が落ちてんな。ああ何人か犠牲になったようや。片貫は、もう道具に使われれとんな。
せやけど、警官が邪魔やな。
幻術使こうても、こないにも近うてはなぁ。あっ、巨大怪獣でいくか。
「ほい」
「わー、怪獣だ。まず、10km下がる、全員下がれ。上層部へ連絡、自衛隊を要請しろ」
と警官たちが下がり始めた。
警察の皆さん、おつとめご苦労さんや。怪獣は海に行くけんよろしゅう頼みます。これで邪魔者はいなくなった。
さて、いくで、片貫! 体当たりや!
ドカ
ヨッシャ、お姉さんは奪還や。
「おい、生きとるか? 気絶してるんだけやな。ここで休どいてな。さあ、次は魔法の杖を返してもらうで」
◇ ◇ ◇
「おい、片貫、オノレ聞こえとるか?」
片貫は、反応すること無く、熊手を振り回して万華を襲う。万華は槍でそれを躱し、突きを放つが熊手がガードした。
「駄目やな。もう完全に乗っ取られとるな。悪いがその右手、切り落とすぜ」
万華は、何とか魔法具を持っている右手を切り落とそうと回り込みを試みる。しかし、熊手は、万華の超高速の槍裁きに合わせて躱し、反撃してくる。
「あかん、片貫の体、もう全身が壊れとるやんけ」
人間ではあり得ない早さで、熊手が勝手に動いてしまうため、体中の関節が抜け、骨折している。まるで右手だけを捕まれた縫いぐるみが振り回されているのような状態であった。
万華は槍を両手に持ち、熊手を止めて力押しした。
「おい片貫、魔法具を離せ。お前の心が離さないと離れないぞ」
と説得を試みるが反応が無い。
いかにチンピラであっても、魔法具に出会わなければ、こんな事にはならなかっただろう。せめて人間の法律で罰せられることを望んだが、それも望み薄であった。
「駄目やな。しゃあ無い。片貫、ウチが引導を渡す。オノレの欲深さを恨め」
万華は力を込めて、片貫を吹き飛ばそうとしたとき、左から強い違和感を覚えた。
「ん?」
高エネルギー魔力体が地を這い、周りのビルのガラスを割り、アスファルトを剥がしながら接近してきた。
「あかん」
その高エネルギー魔力体は万華を直撃したが、咄嗟に空間結界を張ったお陰で吹き飛ばされるだけで済んだ。
しかし、片貫は蒸発し、魔法具は転がった。
万華は、かなりの距離を吹き飛ばされ、何とか立て直したが、高エネルギー魔力体が来た方向から、何かの集団が接近してくるのを感じた。
最初は気配だけだったが、姿を隠した武装集団だと分かった。万華は武装集団の目当ては熊手の魔法具だろうと判断し、衝撃波で窓ガラスがわれることも構わずに急加速して、武装集団に先駆けて魔法具に接近しようとした。
しかし、突然、左手に子供が3人、さらにその真上の空中にバスが現れた。このままでは、子供がバスの下敷きなる。
「なんや、誰がこんな悪さするんや」
子供を助けるために急旋回してバスの下に入り、落下するバスを受け止め、それを投げ飛ばそうとした。しかし、その上から次々と瓦礫が雨の様に降り注いだ。
「あかん、このまま、バスを投げてしまうと、瓦礫が子供に当たる。太白龍顕現! 魔法具を奪え」
万華は槍を太白龍に戻し、魔法具の奪取に向かわせるが、太白龍は武装集団の攻撃によって、一瞬、身動きが取れなくなった。その一瞬をついて、武装集団は熊手の魔法具を回収し、上空へ飛び去った。
「かー、何やねん。癪に障る」
何が起きたのか理解できない子供達は泣き出し、バスの下でしゃがんでいる。
「心配せえへんでええ。お姉ちゃんが守たるさかい。もっとこっちに
万華は、バスと瓦礫を撥ねのけようと、力を込めてたが重さは増すばかりだ。
「くっ、誰や重力結界を張るのは。これでは下手に出れへんやないか」
◇ ◇ ◇
「という訳や。瓦礫を太白に片付けさせとった所に権さんが来てくれたって事やな」
「熊手の魔法具は駄目だったか」
「残念ながら回収でけへんかった」
3人の子供は、目の前で子供が消えたとパニックになっていた親に返され、俺達は桜木町の方へ移動した。
「ところで、高エネルギー魔力体ってなんだ?」
「ラノベ、ファンタジー風に言えばファイアーボールや」
「魔法かい。と言う事は武装集団は、魔法使いの集団か? それとも騎士団か?」
「いや、近未来武装した特殊部隊やったな」
今回の襲撃の武装集団は、レザー銃に,光学迷彩スーツ、ウェアラブル小型ジェット、公には、どれも試作レベルでしかない武器を使っていたと言う事だ。
そして最大の懸念は、あの万華から魔法具をまんまと掠め取ったという事実だ。周到な計画をみると、武装集団は万華の存在を知っていることになる。
魔法を使い、近未来兵器を使う組織。一体どんな奴らなんだ?
ピポ
「久保田だ、メールか メール、…… あっ面倒くせ」
メールによると、片貫は、1週間前に河口湖方面へキャンプに行っていたらしい。自慢げにSNSに数枚の写真を上げてたようだ。その少し前になるが、河口湖で異音騒動があった。時々、夜中にゴーっという音が山の方から聞こえて来て、地元民は大規模な地滑りを心配していたようだ。片貫のSNSには、探検と称して、その音を突き止めるとか掲載されているが、そこからの更新はない。
「権さん、そのメール、ウチにも転送してくれへん」
「転送? 転送、転送 …… 転送?」
「権さん、今時、メールの転送もできへんのか?」
「うっせ」
「ちょい貸してみい。…… 権さん、未読が多すぎやで」
畜生、万華に揶揄われる種を渡してしまった。
それは、さておき、山の不審な音は、魔法具が出したかもしれないと万華は言った。魔法具はそれだけでも様々な現象を起こすらしい。例えば虹を描いたり、光輝いたり、そして音を出したりだ。万華の領巾も江ノ島や箱根でキラキラ光る帯として報道されたことがある。
今回、魔法の杖は回収できなかったが、河口湖については調べてみよう。何か他に証拠や痕跡が残っているかも知れない。
◇ ◇ ◇
「万華、これは …… 」
俺達は河口湖のキャンプ場周辺の聞き込みから、不気味な音が出たという場所に来た。1週間前に片貫がやって来たはずだ。
そこは普通の人間でも一見して異常な場所というのがわかる。周りの木が、中心に向かって倒れているからだ。
「まあ、見ての通りや。ここには魔法具相当の物があったやろな」
俺と久保田で、周辺住民に聞いたところ、片貫らしき若者が、面白半分に山に入ったことを覚えていた。その次の日、サラリーマン風の男たちがやって来て、やはり山に入ったそうだ。その男たちは下山後に片貫たちの事をしつこく聞いたらしい。
サラリーマン風の男たちは、ここに有った熊手の魔法具を回収しに来たが、片貫が先にそれを持って行ってしまったと言う事だろう。
「あっ、久保田が
と万華はパーカーのポケットに手を突っ込んで、下を向いたまま呟いた。俺には全く気配を感じない。
しばらくして、ガサガサと音を立てながら、
「ボス、万華ちゃん、ここにいたんですか。探しましたよ。 ところで、これ何ですか? ミステリーサークル?」
と久保田が息を弾ませてやって来た。
「いや、まあ、そうだ、片貫の悪ふざけじゃねぇか。ところで何だ?」
と誤魔化してみた。
「ああ、メールで送ろうと思ったですけどね。ボス嫌がるから」
「電話すれば良いだろう」
「電話ですか〜。まあ、いいや。ところで、サラリーマン風の男たちが帰った後に、政府機関と名のった人が同じく、この場所について聞いてきたそうです。警察なら警察と名のると思うですけどね」
と報告してくれた。
久保田の言うとおりだ。警察ならそう名のるだろう。サラリーマン風の男達は、片貫が事件を起こす前にここに来たことから、熊手の魔法具を知っていたに違いない。そして政府関係者だ。そのサラリーマン風の男たちを監視していたと考えるのが自然だ。
謎の武装集団、4Thワールドカンパニー、サラリーマン風の男たち、政府機関、どんどん焦臭くなってきたぞ。
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