第16話 探偵 勇者と出会う

「今度は、万華ちゃんが入って」

「ええよ」

「皆、変顔して …… 万華、変顔、ぶっはははは、だめ。万華の変顔、凄すぎ。笑いすぎてシャッター押せない」

「明美、早よ、撮ってぇーな」

「ヒヒ、ハハハ、だめ、笑いすぎて、息ができない。ヒー、はぁ」


カシャ


「どや、ええ写真とれたん?」

「万華のギャップが、凄すぎ。万華って、普通にしていると、すっごい美人なのに。なんでこんな顔できるの」

「ええやろー。これからは変顔アイドルや」


 こないだは、胸糞悪い武装集団のせいで熊手の魔法具回収に失敗した。

 せやけど、あの武装集団の正体が分からへん以上、することはあらへん。

 することあらへん以上 落ち込んでもしょうがあらへん。

 そもそも、落ち込むのはウチの性分やあらへん。


 せやからウチは、ラノベ研の3人と短い春休みの1日を使って、二子玉にやって来た。ショッピングや会話を楽しんだ後、多摩川の河川敷におりて、青春の1ページを過ごしているところや。


「ねぇ、あの人、コスプレヤーかなぁ」

と章子ちゃんが川の方を指差して聞いてきた。


 章子ちゃんが指す方向を見た明美が

「でも、何か足がフラついてる。鎧が重そう」

「あっ、倒れちゃった。大丈夫かしら」

とミコちゃんが心配した。


 しばらくウチら四人は、倒れたコスプレヤーを観察していたが、いっこうに起きる上がる気配が無い。


「ちょっと、ウチ、見てくる」

「万華ちゃん、気を付けてね」


 ウチは、鎧姿で倒れてた奴のところに近づいた。


「こいつは …… 臭! 風呂入ってへんな」


 転生者やな。もうルート崩壊から一ヶ月以上になるが、こんな姿のままでウロついていたのか。臭いわけや。これはあかん、ちょい臭い消したるか。


「それから、これをお飲み …… 」

と仙薬を一粒飲まして、権さんを呼んだ。


   ◇ ◇ ◇


 俺は万華から連絡を受け、鎧男を乗せて戻って来た。ちょうど良く、久保田はもう退社している。


「万華、なんで直ぐに送り返さないだ?」

「こいつの鎧や体の傷を見てみぃ、元の平行世界で戦っていたと思うんや。それで何で、この世界に転送されてきたのか聞きたいや」

「分かった。そうだな」


 俺はまず兜を外した。そこには金色の長髪で、無精髭の生えた西洋人の様な男の顔があった。耳が長いな。エルフってやつか?


「うーん」

とうなり声。


「おい、起きろ、大丈夫か?」

と声をかけると、目を開き、驚きの表情を見せた。


「#$#%%?&%&%&$%%%!」


「なんだ? 何語だ?」

と俺は万華を見た。


「ああ、言語変換が合っていないや」

と言いながら、エルフの男の額を指で軽く弾いた。


「ここは何処だ? コンシェルジュ、答えてくれ」

と日本語に変わった。


「万華、どういう事なんだ?」

「これも蓬莱の転生者サポートの一つや。ほれ、転移した場合、その場所の言葉が分からへんと冒険にならんやろ。それにこの狭い地球でも多くの言語があるやんか。生まれ変わったとしても全部の言語を学んどったら、魔王は征服完了してまうで」


 なるほどな。確かに言葉は問題だな。俺は日本語だけだが。


 万華は、エルフの男に向き直り、

「ここは、第3平行世界の地球の日本やで。と言っても分からんやろな。ところで、あんた、コンシェルジュ言うたか? 」


「言ったがどうした。人にものを尋ねるには、先ずは名乗るの筋であろう」


 何か高飛車な奴だな。助けたのはこっちだぞ。


「俺は千野 権蔵、こいつは千野 万華だ。お前の名前は?」

「私は、勇者フレリー・フォン・フォールケンである」


 自分の事を『勇者』って言うかな。自信過剰な奴だ。


「コンシェルジュ、ここは何処だ? 答えろコンシェルジュ」

虚空を見上げながら、エルフの男は叫んでいる。


「コンシェルジュ、コンシェルジュって、ここはホテルじゃねぇぜ。こいつは何を言っているだ?」

「賢者とか、お告げの女神とかや。ウチみたいに直接仙人がサポートする場合もあるし、頭の中からサポートするのもおる」


 万華からそんな話を聞いていると勇者様は、

「あれ? 私のレベル表示が …… ない …… 私の、私の、私のLv100が消えた」

と虚空を見ながら叫んだ。


「レベルって何のことだ?」

「元の平行世界での、特殊機能やな。成長を急がせるために作ったシステムや。ほれ、自分が練習した分、結果が数字で表れて、スキルを習得する毎に追加表示されたら、やる気がでるやろ。やる気スイッチの1つやな。それが幾つかの平行世界では見えるや。この第3平行世界では、…… ああ …… 転生者には、見えへんのよ」


「万華には、そういうのが見えるか?」

「似たもんは、見えるで」

「俺のは幾つなんだ?」

 

 万華は俺をじっと見て、


「133」

「133か。それは結構高い方なのか?」

「ちょっと高めやな」


 あの勇者がLv100って言っていたから、俺は勇者以上ってことになる。日頃、腕立て伏せにジョギングで鍛えているからな。その訓練の賜かもしれん。


 勇者以上という事はやはりスーパーヒーローだろう。青いスーツに赤のパンツ、赤いマントか。いや、黒い仮面にコウモリのスーツの方がシックリくるか。胸には権蔵の『G』のマークが欲しい。


「それから、下が90」

「下?」


 下って何だ。Lv90 〜 133って幅があるのか?


「それから、80 〜 90」

「なんだ?」


「98%」

「パーセント?」


「6.9mg/dL」

「ミリグラム・パー・デシリットル?」


「権さん、心拍と血中酸素はええが、血圧と尿酸値、高めやんけ。ちょっと酒は控えたほうがええで」

「えええ」


「きゃははははは、嘘や嘘。この間の権さんが、見ていた健康診断の結果を千里眼で見たんや。この世界じゃLvやスキル表示はあらへん。あー可笑しい」

「万華、お前」


「でも酒は控えた方がええで。それより、この勇者のコンシェルジュもこっちの世界におるはずやで」

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