第28話 万華 激闘(2)

——— 倉庫の遙か上空 ———


「魔王ガガットをお助けにならないのですか?」

「いや、良いでしょう。実験的に呼び出しただけですから。彼の魔法具も返してあげたし、それで負けるなら、それまでのこと。それより蓬莱石は回収していますね、妲己さん」

「はい、ここにあります。装置も破壊しました」

「流石ですね。聖剣は、ちょっと惜しいですけど欲を掻かずに、この場を離れましょう。あんなのがいると邪魔をされるだけですから。今度は慎重に事を運ばなければなりませんね」


   ◇ ◇ ◇


 魔王の熊手の魔法具でたたき落とされた万華は、

「くっ、やるやないか」

と起き上がり再び空中に飛んだ。槍を使い熊手を牽制して、魔王の体に痛撃を与え続ける。


 権蔵とフレリーは聖剣のある場所に向かった。何匹もの餓鬼が2人を襲うが、湘賢が障壁を張り、権蔵がS&Wで撃ち殺し、フレリーは徒手で殴りつけた。


「無理するな。聖剣を手にする前に拳が潰れたら元も子もないぜ」

と権蔵はフレリーを心配した。


 そのフレリーは、

「ギルマス、まだまだ、大丈夫だ」

と根性を見せた。


 権蔵はフレリーを援護しながら、聖剣のところにたどりつき、聖剣を背にして、S&Wで餓鬼を撃ち殺していった。


 その時、激しい衝突音。

 万華が2度目の落下をした。

 そこへ、魔王が追撃する。


「万華!」

と叫ぶと、今度は背後から光りが刺した。


 フレリーが掲げた聖剣が強烈な光りを放ったのだ。


 光りは広大な倉庫全体を満たし、魔王の視界も遮った。しばらくして光りが弱まり、視界が戻ると周りの餓鬼は消滅した。


「魔王ガガット。私が相手だ。今度こそ覚悟しろ」


 フレリーは剣先を魔王に向けて挑発した。その魔王はフレリーに向き直り、氷の槍を飛ばしながら向かってくる。


 フレリーは、それを聖剣で打ち落とした。


 魔王は笑いを浮かべて、

「聖女もいないのに儂に勝てると思っているのか? 以前のようには行かないぞ」

「くっ。貴様、ナリーナをどうした?」

「もう喰ったと言いたいが、食う前に聖霊術を使って、石になった。これだ。ガハハハ、お前の目のまで、握りつぶしてやろう」


 魔王ガガットは、万華を殴りつけた熊手の魔法具で小さな石をつまんだ。勇者の前で壊せば心が折れると踏んで、聖女の石を切り札として残しておいたのだ。


「止めろ!、ガガット、俺と勝負しろ」

「ガハハハ、これは愉快だ。この石を砂にしてから闘ってやるよ」


 魔王は、つまんだ石が、勇者に見えるように熊手の魔法具を前にだした。


 万華を制圧し、勇者の恋人を手中に収め、明らかに優位に立った事を宣言するかのように見えた。


 そして、魔王が熊手の魔法具に力を込めようとしたとき、光りが一閃した。熊手の魔法具を持った腕が地に落ち、聖女の石が転がる。


 勇者が駆け寄り、素早く湘賢が障壁を張った。

 

「やっと、聖女の行方が分かった。田舎魔王キャロット、礼を言うで」

と万華が言う。


「貴様、あの一撃を ……」

「ちょっと、効いた。そやな、蚊に刺された程度やな」


 万華の強がりに反して、鎧は傷だらけだった。それは魔王の攻撃の激しさを物語っている。


 そして魔王は残った左手で熊手の魔法具を拾うとする。


「魔王、甘いで」

と万華が言うと、瞬時に熊手の魔法具の上に現れ、槍で突き刺し破壊した。


「貴様」

と言いながら、左手で火球を作り出し、万華に投げ始める。万華はさっと避け、湘賢は権蔵たちが被弾しないように払子を振って障壁を張る。


 この時、権蔵は、万華と湘賢は『矛と盾』の関係だと気付いた。


 万華が闇を突き刺す矛ならば、湘賢は死の瘴気から守る盾。敵がいなければ、矛と盾は折り合う訳がない。しかし敵がいれば、お互いを補完し合い万全の体制となる。


「くっ、こうなれば、『空間 グハッ』」

「ふっ。それも甘いで。呪文を唱えさせる訳ないやろ。フレリーお前の出番だ」

と勇者に声をかけた。


「おう!」

と答えるフレリー。

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