第27話 万華 激闘(1)

 薄暗い天井からは不気味なモニュメントが垂れ下がり、足下には死肉が散らばっている。惨劇の会場から奥へ進むと、大きな岩が見えてきた。

 その岩は、一山ほどの大きさで、頂上付近は仄かに光りを放っている。その光りの中に剣が突き刺さっていた。


 それを見たフレリーが

「聖剣フォルーラーだ」

と声を上げながら、岩にかかっている梯子に急ごうとした。


 その時、権蔵は暗闇が動いたように見えた。何かが蠢き、こちらに向かっている。倉庫の窓から刺す月明かりに現れたのは、数百体の餓鬼だった。


 権蔵は、餓鬼の多さを知り、何人が犠牲になったのかと考えると、怒りが腹の中に溜まった。


「くそ、胸くそ悪いぜ …… フレリー気を付けろ、あの餓鬼がいるぞ」

と権蔵がフレリーに声をかけると、餓鬼がフレリーに襲いかかった。


 湘賢が払子を振り、フレリーを間一髪の所で助け、権蔵は障壁にぶつかりたじろいだ餓鬼をS&Wで撃ち抜く。


「屁理屈、フレリーはウチに任せな」


 万華はフレリーの横に現れて、餓鬼達を長い槍で突き刺し、なぎ払い、頭を殴りつけて潰した。


「フレリー、聖剣を岩から抜くんや。お前にしかできひん」


 フレリーは、一歩一歩、梯子を登り、万華は襲ってくる餓鬼を退け続けた。

 そして万華も頃合いを見て、一気に頂上まで飛び、梯子を登ってくる餓鬼を突き落とした。


 息を整え聖剣に近づくフレリー。あの魔王ガガットを突き刺した聖剣がそこにある。 

 こちらの世界に来たとき、手元にないことに気づいた。知らない河原を行ったり来たりし、まだ肌寒い川の中も探し回った。河原の石を裏返してまで探し回ったが、結局見つからず途方に暮れた。

 その聖剣が目の前にある。この世界にいる魔王ガガットを完全に滅ぼすために現れたとフレリーは確信した。


 フレリーが聖剣に手をかけ、力を込めて引き抜こうとしたその時、巨大なハンマーの様な手が、岩ごと叩き潰した。


 破裂音ような巨大な音の後に濛々と土埃が立ちこめ、権蔵は何が起きたのかよく分からなかった。


「万華!」


 権蔵の叫び声は砂埃の中で、虚しくも消えていく。


「畜生 …… 湘賢、万華とフレリーは?」

「心配あらへん左の方や」

と湘賢は事もなげに、岩があった場所から左側の方を指差した。


 そこには、湘賢が掛けた障壁に守られ、万華に肩を抱えられたフレリーがいた。そして、岩のあった場所には、巨大な手があり根元には豚と熊とゴリラを足して、羽をつけたような奇っ怪な生物がいた。


「ふっ、儂の一撃を避けるとは褒めてやろう」


 その奇っ怪な生き物が流暢な日本語を喋った。


 魔王ガガットは、聖剣を餌にして、自分を倒しに来るであろう奴を罠に掛けようと思っていた。そしてフレリーが現れた事を、ほくそ笑み、あの勇者を始末できると踏んでいた。しかし、万華がその一撃からフレリーを助けた。


 一方で、万華は瓦礫の中に落ちた聖剣をフレリーに取らせるには、この魔王の気を自分に向けさせる必要があると思った。


「さて、仕切り直しやで。おい、そこの田舎魔王キョロット、ウチが成敗したる」

「脳筋、ガガットや」

「分かっとる。なあ、キャラット。田舎魔王は何処の出身だ?」


 万華はフレリーから離れて、挑発を続ける。


「ガハハハハ、フレリー、一人では儂にかなわいと見て、助太刀を連れてきたか? しかし何人、無能が揃おうと、無能は無能だぞ」

と魔王は喋った。


 それに対して、フレリーが何か言いかけたが、万華が先に

「おい、田舎魔王キャラット、そのドラゴンの耳かきでウチを倒せると思とんのか? それにや、その口はなんや、その口じゃ、歯も磨いてへんのやろな。うえ、ばっちい。ウチの知っている都会の魔王はもっと洗練されてるで。ベットを供にしたろかと思わせるくらいにや。田舎魔王キャラットはトイレのスリッパ以下や。履くのも嫌やな。田舎魔王キャラットは田舎へ帰った方が身の為やで。何や、何も言い返せんのか。頭足りんすぎやろ」


 万華が、次々と叩きつける悪口に、魔王の顔がピクピクと引きつった。


「小娘、ただじゃ殺さない。儂が死体のベットのうえで、弄んでやろう。その体から何人の魔族を生めるか楽しみだ」

と言った後、熊手を万華に振り落とした。


 万華はサックと避けて、

「あほ、何処見とんのや。今度はこっちからや」


 万華の声がしたかと思うと、魔王の顔の真ん前に現れて、顔面に蹴りを入れた。しかし、熊手が素早く動き、その蹴りを抑えた。


 そして魔王は羽を広げ、空を飛び、万華はそれを追った。


 一匹の魔王と、一柱の天女の空中戦が始まった。


 それを見ていた権蔵は、万華の意図を理解し、

「フレリー、万華が引きつけている間に聖剣を取りに行くぞ」

と促した。


 権蔵は、岩の瓦礫の中で仄かに光っている聖剣まで近づこうと走り始めた。大小の瓦礫が散らばり、歩きにくい。


 そしてもう少しの所で、

「”警告します。餓鬼が奥から出てきました”」

と権蔵とフレリーは、コンシェルジュの声を聞いた。目をこらすと、またウヨウヨと出てきた餓鬼を確認した。


 湘賢の障壁と俺のS&Wで応戦し、空中では万華と魔王が激しくぶつかり合っている。


「ええい、ちょこまかと。グハッ! 」

「口開くと、舌噛むで」


「ぐああああああ」

と魔王は雄叫びをあげ、万華を熊手で撃ち落とした。

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