第29話 万華 魔王討伐す
魔王は羽を広がて飛び立とうとするが、また光りが一閃し、羽を切り落としてしまった。
「
と万華の声がする。
そして墜落した魔王の元にフレリーが駆けつけ、剣を振るう。鎧のような皮膚の魔王だが、フレリーは正確に魔王の左腕の筋を狙い、弱点を突く。
「ガッ。お前、剣の腕を上げたか」
「魔王、覚悟しろ」
魔王は、左手でフレリーをなぎ払おうとするが、フレリーは後ろに下がり避けた。そして、今度は、バランスが崩れた魔王の左足を切つける。
たまらず、魔王は左腕と蹴りで反撃し始めた。その早さと重さはフレリーに勝った。
フレリーは聖剣で受けて躱すものの次第に圧され、ついにはその首に魔王の爪が迫った。あわや突き刺さるかと思えた、その時、湘賢の障壁がそれを弾いた。
魔王は反動で大きく後退し、左手を地につけた。その瞬間をついて、魔力を大地に込め、先の鋭い土の槍を針の山のように出現させた。しかし、間一髪の所で権蔵とフレリーの足下に現れた障壁が、土の槍に突き刺されるのを防いだ。
その時、
「お前の弱みはここだあぁぁ」
と権蔵に向かって、魔王は黒い炎を纏った左腕で迫る。
権蔵は咄嗟にS&Wを撃ったが、魔王には効果がない。
「まずい」
と思ったその時、権蔵の視界を遮るように万華の後ろ姿がそこにあった。
万華は右手で、魔王の黒い炎の拳を止めたのだ。
「権さんを狙うとは、ええ度胸しとるやないか」
権蔵には、万華のその声が何時もより低く感じ、魔王の顔には驚愕の色が浮かんでいる。
「フレリー、
と万華はフレリーに声をかけた。
「ナリーナ、聖女の力を」
とフレリーは、声を上げて聖剣を持って魔王めがけて走った。
すると、ナリーナの石から、光りの粒が出て聖剣フォルーラーに纏わり、聖剣はより一層光輝いた。
「聖剣フォルーラーよ！ 魔王に届け！」
聖剣は魔王の胸を貫いた。
魔王ガガット・ガレイは、
「ガアアアアアア、ああぁぁ」
と断末魔の叫びを上げ、消滅した。
しばしの静寂。フレリーは精魂尽きて両膝をついて肩で息をしている。
湘賢は、フレリーに駆け寄り、
「ようやった」
と声をかけた。
権蔵も、
「万華」
と声をかけたが、
「ちょい、待ってな」
と言って、顔を向けずに一度、空中に飛び上がり、鎧から普段着に変わって降りてきた。
ただ単に、鎧姿から変わりたかっただけなのか、権蔵には少し引っかかるものがあった。
◇ ◇ ◇
俺達は、アラキタ倉庫から出て、海の方へ向かった。湘賢の仙術で服は綺麗になり、返り血も消えた。すでに水平線は明るくなり、もう少しで日が昇る。
フレリーが聖女の石を胸に抱き、膝を突いて太陽に向かって祈った。すると、石からオレンジ色の光りが現れ、次第に人の形となった。最後には、何かを抱えた耳が少し長い女性が立っていた。
「ナリーナ、無事だっただね。会いたかったよ」
とフレリーがその女性に声をかけた。
「ああ、私も会いたかったわ。フレリー …… で、聖剣は何処？」
とフレリーへの挨拶もそこそこに、聖剣のことを気にするナリーナ。
「ああ、ここにあるよ」
とフレリーは、湘賢から聖剣をもらい、それを見せた。
「素敵！ じゃあこれに納めて」
と持っていた物をフレリーに渡す。それは剣の鞘だった。
「ああ、うーん、ここで納めるのか？」
と意味不明な回答をするフレリー。
「うふ、
とナリーナの受け答えも可笑しい。
観念したのか、フレリーは聖剣フォルーラーをナリーナの鞘に挿入した。
「あああああ、あっはぁーん。いいわ。素敵」
とナリーナは、何故か上気して、ペタッと座ってしまった。
ええっと。何だ？ こいつらは。俺には全く理解できない。
俺は、この異世界人達の奇妙な性癖を見て、つき合ってられない気持ちなった。
「俺、帰るわ。フレリー、金はあるよな。湘賢、後は頼む。万華は如何する？」
「ウチは、お日さんと海の気をもらいに瞑想するけん、沖の方に行ってくる。先、帰ってや」
と言って、水平線の向こうにトップガンで飛んで行った。
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