第50話 万華 レヴィアタンと遭遇
銃を撃った男は、突然現れた腕の持ち主に目線を移した。そこには、デニムのパンツにショート丈のタンクトップ、野球帽を被り、長い髪の毛を潮風に靡かせてた、歳の頃は一七、八歳のまだ少女が抜けきらない女性がいた。
その女性は、指に挟んだ弾丸を顔の前に持ってくる。その時、男はその女性と目があった。
『殺気』
これまでの数々の戦場を渡り歩き、女子供も容赦なく殺してきた傭兵。それが今し方、猫を撃とうした男だった。その男がその少女の目に灯る殺気にあらがいようのない恐怖を感じた。
「ニヒッ。兵隊さん、おこんには」
少し低いが、少女の声であった。しかし、その笑みに獲物を前にした猛獣を感じた。
男は
「だ、だっ、誰だ?」
と言いながら後ろに飛び退いた。
「万華やで。下の兵隊さんは、皆伸びてるで。オノレはどないする?」
男は、後ずさりしながらも軽機関銃で、万華を撃とうと構える。
そして、瞬きで目を閉じ開けたその刹那の時間
万華は、その男の横に移動し軽機関銃を取り上げてしまった。
男は、悲鳴を上げて、また、飛び退き、
「こうなったら、船ごとだ」
と何か操作して海に飛び込んでしまった。
さほどまで、静かだった海に白波が立ち始めた。巨大な何かが海中を泳いでいる。帆船の帆布よりも大きな尾鰭が現れ、水面を叩いて水中に潜ったかと思うと、巨大な蛇のような鱗のついた長いものが現れる。
「権さん、海から離れや」
と万華が呼んだ。
ザッ・バーン
大きな水飛沫と波、船体が大きく傾いた。
「イヤー、イヤー」
と和美は頭を抱えてうずくまった。先ほど男二人を沈めた女性とは思えないか弱さだと権蔵は感じた。
「和美、しっかりしろ! 」
権蔵はパニックに陥った知美の頬を平手打ちして落ち着かせ、階下に続く階段へ急ぐ。何とか安全な場所に知美を置き、後ろを振り返った。
そこには、大きく揺れる船に全く動じない鎧姿の万華が、海を睨んで立っている。そしてその目線の先には、長い髭の生えた蛇。
「あれは、龍か?」
と権蔵が万華に聞くでもなく呟くと、
「あんな下品で下等な奴は、龍あらへん。第四九平行世界のレヴィアタンや」
と答えた。
◇ ◇ ◇
万華は、槍を構え、レヴィアタンの顔の前に浮かんだ。
「太白、お前とこのできの悪い親戚が出てきたで」
と槍に向かって呟く。
すると、それに反応したかのうように、レヴィアタンは口を開けて万華を喰おうとする。万華は、口が閉まる前に横に避け、槍を縦に薙いでレヴィアタンの頭を打ち、たたき落とした。大きな水柱が立ち上がり、レヴィアタンは水中に隠れていく。しかし万華は、水中に突進し、追撃する。
とぐろを巻き、万華の攻撃を躱すレヴィアタン。眉間を狙って槍を構えて突進する万華。
この時、権蔵が乗船している船の底が万華の目に入った。大嵐の木の葉のように大型客船は波間に漂っている。
万華は船が近すぎると思い、レヴィアタンを船から遠ざけようと考えた。
「”太白龍顕現 レヴィアタンを引き離せ”」
と念じ、槍をレヴィアタンに向かって投げた。
すると、槍は、白龍に変化し、レヴィアタンと同じ位の大きさに巨大化した。そして、白龍とレヴィアタンが蜷局をまき、お互いを締め付け、噛みつき合って海底に沈んでいく。
万華はその様子を目で追い、かなり沈んだことを見計らって、太白とレヴィアタンが絡んでいる所へ突進した。
「”太白、戻れ”」
と念じると、何時もの槍に戻り、水中をもの凄い速度で万華の方に向かって戻って来る。万華は、それをキャッチして、その勢いのまま、方向を変えてレヴィアタンに向かう。
レヴィアタンの眉間を狙って再び突進する万華。しかしレヴィアタンは体をよじる。万華の槍は眉間に届かず、背中の一部を傷つけただけだった。
今度は、頭に乗ろうとするが、巨大な尾っぽに吹き飛ばされた。
流石の万華も目眩がした。
「くそ、何処や …… 逃げられたやん」
万華が一瞬目を離した隙にレヴィアタンは、もの凄いスピードで泳ぎ千里眼でも届かない海底深くに逃げていった。
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