第52話 万華と砲撃娘

「万華お姉様、そないなまどろっこしいこっちゃ、敵は殲滅できしまへんわ」


 二角帽にネルソンコート着込んだ少女は、艦長席から立ち上がり、前方の交戦状況を確認して呟いた。


 そして大きな声で命令する。


「面舵一杯、左舷全砲門開け。目標、妖魔浮遊大陸! 」


 艦首に龍の像を遇った大型戦艦ドラゴンズパレスが進路を変え、その船腹を妖魔浮遊大陸に向けた。


 その二角帽の少女は、千里眼を使って魔族と戦っている万華を確認し、

「お姉様、お避けあそばせ」

と小さな声で呟く。


 そして妖魔浮遊大陸をその目に捕らえて満面の笑みをたたえると、一度右腕を上げ、それを標的の方角に倒し、

「撃て! 」

と艦砲射撃を指示した。


 側面の十機の荷電粒子砲が次々と火を噴き、空間干渉の仙術で高速に回転する重粒子を閉じ込めた光球が発射された。


 光球は、空気と接触し稲妻を纏いながら、妖魔浮遊大陸に向かって行く。


 一方、万華は前線で転生者と供に妖魔と闘っていた。自在に伸びる槍を振れば、数十体の飛翔魔獣が肉片と化し、けりを入れれば、穴が開く。三昧真火の火炎を起こせば、敵は悉く炭になる。そして、百匹の飛行魔獣を槍の一閃で葬ったとき、遠くのドラゴンズパレスから光球が発射されたのを横目に捕らえた。


「あのドアホ。ウチらがここにおるのを知っとって、砲撃しやがった」


 万華は一緒に闘っている転生者の首根っこを掴んで、

わりい、砲撃娘が撃ち始めた。離脱するで。全員待避! 」

といいながら無理矢理離脱する。


 光球を避け、追いすがる飛翔妖魔を蹴散らしながら、前線から大きく離れると妖魔浮遊大陸が閃光に包まれるのを感じた。


 光球は、魔法障壁を破壊し、着弾した場所は高熱により瓦礫と化した。


   ◇ ◇ ◇


「おい、乙姫! ウチらがるのに、何で砲撃したんや」


 万華はドラゴンズパレスに到着早々、艦橋に行き抗議した。


「お姉様の武勇は素晴らしい思うやけど、敵が仰山おるさかい難儀していらしたご様子。それでお手伝いさせて頂きましたんどす。それにお姉様なら、あの程度の光球を避けるの、簡単やあらしまへんか」


「せやけど、転生者もおるやろ! 」


 万華は虫が治まらず、乙姫の胸ぐらを掴んだ。


「転生者を守るのは蓬莱の天女の役目やさかい、それはお姉様にお任せいたします。ウチら常世の天女は敵の殲滅が役目どすさかい、それ実行したまでのこと。それにお姉様は、ちゃんと転生者を守って帰還されてるさかい問題ない思います」


 万華に胸ぐらを捕まれても、平然と言い返す乙姫。


「乙姫、妹分だと思って手加減しているや。生意気なこと抜かすと、はっ倒すぞ」


「あら、そないに言うなら、上を通して抗議しとぉくれやす。多分、元帥様も納得して頂ける思います」


 万華は歯ぎしりしながらも、乙姫を離した。


   ◇ ◇ ◇


「乙姫? あの乙姫なのか?」


 俺は聞き返した。まあ、織り姫とかぐや姫がいるのだから、乙姫が居ても不思議ではない。しかし、万華が話してくれた『常世の国の乙女』は、ご多分に漏れず言い伝えとは全く違った印象だ。こうして考えると、おっとり織り姫が一番天女に近い。かぐや姫はドジでお調子者だ。万華は天女と言うより女戦士だ。その万華に砲撃娘と言わせる乙姫とはどんなに恐ろしい天女なのだろうか。それに『常世』ってなんだ?


「ところで、蓬莱と常世って違うのか?」

「地上の人には同じ意味で使われることがあるんやけど、上の世界じゃ違うんや」

「ほう?」


 俺は興味が湧いて、聞いてみた。


「諜報部と軍隊の差かな」

「常世が軍隊か、蓬莱は諜報部か? 」

「ちょい、ちゃうか。蓬莱は何やろうな。芸能プロダクション。そや、芸能プロダクションや。権さんは俳優やな」


 蓬莱は芸能プロダクション。確かに転生者を仙人というエージェントがサポートする点は似ているけど、エージェントが強すぎて、それもちょっと違うような気がする。所で乙姫も転生者をサポートするのだろうか。


「乙姫の目的は? 蓬莱のように転生者をサポートするのか?」


「いや、せえへん。彼奴らが出てくるときはもっと大がかりなときなんや」

「ルート崩壊は、軍隊が出動するほど、大きな問題になり始めたということか」


 それから、内調の加芽崎だ。そう言えば、河口湖に魔王ガガットの魔法具を調べに行ったとき、政府機関の者が調査に来ていたな。蓬莱石を盗んだ犯人、天界の軍か。俺の手に負えるのだろうか。


   ◇ ◇ ◇


 ブー・ブー・ブー


 事務所を後にして、飲み屋で一人酒を煽っているとき、俺の携帯が着信を告げた。


「もしもし、千野です」

と答えると、

「”加芽崎です。千野さん、急で申し訳ありません。ちょっと会ってくれませんか? 山下公園でお待ちしています。急いで …… ”」

と一方的に話し電話は切れた。

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