第53話 探偵 頼られる(1)
「あーあ、一杯引っかけちまったから、とんだ出費だ」
俺は、酒を飲んでいたせいもあり、タクシーで山下公園までやって来た。もう少しで日付が変わる。
加芽崎のリクエスト通り、山下公園にやって来たが、ここも広いからな。どこに行けば良いのだ?
俺は歩きながら、周りを見回した。遠くにランドマークタワー、左手にマリンタワー、海を見れば、氷川丸の向こうにベイブリッジが見える。夜もだいぶ更けたが、ベンチには
「えーえ。暑いのに、さらにお暑いことだ。ここは、オヤジ一人で歩きたくねぇな」
と、つい、ぼやきが口から漏れた。
加芽崎の緊迫した話し方から、今俺から折り返して携帯をかけるのが、得策か迷うところだ。もし、敵と対峙していたり、隠れていたら、呼び出すのは命取りになりかねない。出来れば、彼女から連絡を望みたい。
とは言え、象の鼻パークに繋がる歩道橋前まで歩いてしまった。山下公園の端っこだ。
さて、如何するか、引き返すか、電話を掛けるか …… 俺は、今来た道を振り返り、マリンタワーを右手見て考えた。すると、
「千野さん」
暗がりから俺を呼ぶ声がした。その声は加芽崎だ。
「千野さん、振り向かずに聞いてください。このまま、真っ直ぐ、階段を上がった所に石の門の様な物が並んだ、『世界の広場』という場所があります。そこへ行ってください」
「分かった」
と短く答えた。
尾行を気にしているようだ。俺も伊達に探偵やっている訳ではないので、その当たりは気に掛けてきた。と言いたい所だが、加芽崎が声をかけるまで気が付かなかった …… 歳かな。
◇ ◇ ◇
ガウディの作品のような階段を登ると、加芽崎が言ったとおり、ストーンサークルのように門が並んでいる場所にでた。暗いその奥は、異世界に繋がっているような錯覚に陥る。
「加芽崎」
俺は、声をひそめて加芽崎を呼んでみた。
「お呼びだてして、申し訳ありません」
と正面の門から加芽崎が現れた。
「いや大丈夫だ。ところで事務所ではなく、ここで会うのは理由があるのだろう?」
「はい、内調にも奴らの手が回っていました。それで千野さんの事務所に行くと、ご迷惑になるかと思いまして」
「手が回っているとは?」
「船の容疑者ですが、内調で取り調べるために移送しました。ところが取り調べる前に ……」
「殺されたか。目鼻口から血を流し、内臓が溶けた?」
「ええ、千野さんを刺したカルト信者のように」
内調だからな。上坂京子の事件について調査済みと言うことか。俺は那須高原のあと、刑事仲間の伝を使って士佐山の死因を調べた。伝染病という扱いになっていたが、妲己が殺したに違いないと確信していたからだ。
「そうか。調査ご苦労さん。それで内調に謀反人がいるかも知れないと思う理由は?」
「内調への移送は極秘でした。如何考えても内通者がいるとしか思えないのです」
相手が人間なら、そうだろう。しかし、妲己のような妖怪では話しは別だろう。この辺りは加芽崎はまだ理解が及んでいない。
「それで、俺に話しとは?」
「船で言ってくれたように、千野さんしか、いえ、千野さんの依頼人しか、相談相手がいないです」
「ほう、ラッキーが何と言うか分からなねぇが。話しは聞こうか」
◇ ◇ ◇
三年前、禄念御組の三下が組長宅から、有る武器を勝手に持ち出しチンピラに自慢していた。それを機関銃と勘違いした当局は、銃刀法不法所持の容疑で捕まえ、その武器を押収したことがある。
一見すると玩具のような武器は、奇妙な石が埋め込まれた銃で、鉛の弾でもレザーでもない、高エネルギー体を発射出来る装置だった。科捜研で調査したとき、誤って作動させてしまい三つ部屋のコンクリート壁をぶち抜いてしまったらしい。地球の科学知識を超えた、その武器は直ぐに日本の最高機密になり、防衛省に送られるはずだった。
「その直前で忽然と消えたのです。禄念御組の三下とともに」
仕方なく、当局は、禄念御組を別件で家宅捜索するも何も見つからず、ぶち壊れた壁を残して事件は迷宮入りになった。
「しかし、あの武器は4Thワールドカンパニーに関係があると見て、禄念御組を調べ続けていたのです。ところが今年の初め、禄念御組は内紛で壊滅し、再度、家宅捜査を行いましたが何も発見できませんでした」
禄念御組崩壊は内紛とかたづけられていたのか。蓬莱は人の記憶から痕跡を消す以外にも物的証拠も消してしまうのだろうか。片貫の件も、アラキタ倉庫の魔王ガガットの件も、記憶や記録が少しずつ、消去、改ざんされているのだろう。万華ほか天女や仙人達は気の良い仲間達だが、考えてみると蓬莱そのものは、ちょっと怖えな。
「そこで、私達は光度興産とアルタ貿易にターゲットを移したのです。そしてアルタ貿易の黒い噂が分かって来たのです」
「人身売買だな」
「そうです。でも、この世界の人間では無かった」
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