第65話 魔族が負ける仕組み
「腐れ仙人、オノレのような天邪鬼な屁理屈が、蓬莱の名を汚すんや」
「脳筋、そのまま、のし付けて返したる。お前のような力しかない、能無しじゃ、獣のとかわらへん、蓬莱は動物園ちゃうで」
キーン、ガン、ガシーン、バン
「なんや、そのへなちょこは。蚊でも刺したんかと思た」
「脳筋天女こそ、三昧真火しか使えへんやろ」
「はあぁ? 悔しかったら、大人の女に化けてみい。少女にしか化けれへんやろ。ロリコン趣味の屁理屈 腐れ仙人め」
加芽崎が心配して俺に近づいてきた。
「千野さん、あの二人、大丈夫なんですか? 何かもう殺し合いですよ」
万華と湘賢だ。まあ、初めて見ると驚くだろうな。
「あの二人は、何時もああだ。心配するな」
今回の発端は万華が、『この冠、面白いやん』と言いながら、チンピラから取り上げてきた『偽王の冠』を指に引っかけて、クルクルと回したところから始まる。
それを見た湘賢が、ニヤニヤしながら、『なんや、脳筋。人から取り上げただけやろ。簡単な仕事やな。冠を見せびらかして、どう言うつもりなんや? 頭でも撫でて欲しいんか』と言わなくても良い事を言った。当然、万華が『屁理屈、ええ度胸しとるやないか。お前など動物、捕まえただけやろ。それこそ、子供で出来ることや。どあほ』と言い返す。
後は何時もの通り。恒例というか、挨拶代わりと言うか、二人は、ああせずに居られない性分としか言いようがない。俺はフレリーと顔を見合わせて、苦笑いしあった。
そこへ乙姫がパッと現れた。
「あら、おふたりさん、ほんま元気でよろしおすなぁ。何時この船にコロッセウムを作ったどしたかねぇ」
乙姫の嫌みに満ちた抗議。しかし、あの二人には通じないだろう。
キーン、ガン、ガシーン、バン、ドッキューン
「幾ら元気でも疲れたのちゃいますか。ちょい、休んでかぐや姉様の話しを聞いてくれしまへんか」
キーン、ガン、ガシーン、バン、ドッキューン、ドカーン、ガガガガッ
乙姫の左頬がピクピクしてきたぞ。加芽崎は俺に背中に隠れた。
「お姉様に湘賢! 大概にしておくれやす。やかましゅうてかないませんわ。まだ続けるならラッキーはんから、きっつい、
出た。泣く子も、万華も黙るラッキー。案の定、万華と湘賢の争いは終了した。とぼとぼと歩く二人を見ていると、加芽崎は不思議そうな顔を向けて来た。
「千野さん、ラッキーって、あの猫ですよね。あの猫って? 」
「俺にも分からねぇ。これも仙人の価値基準なのだろう」
そこへ、かぐや姫が、フワフワと飛びながら、やって来た。
「万華、万華、大変や。サハラ砂漠の宝物の周りに、何処かの兵隊がたむろしてる」
乙姫がパンと手を叩くと、それまで野原だった場所が暗くなり、巨大なスクリーンに何百もの計器が現れた。昔見たSF映画の司令室のような感じだ。そしてスクリーンには、数百、いや数千単位の部隊が映っている。機動兵器も数えられないほどだ。
「おいおい、何だ、あれは。現地国の軍隊、いや、国連や大国と戦争でもおっぱじめるのか」
俺は,無意識のうちに髪の毛を掻き上げていた。
「現地部隊は、ほぼ壊滅、国連やら、この星の大国にはこの事態は伝わってへんどす」
「どういうことだ? 」
乙姫の言葉を聞いて、加芽崎を見た。
「全世界の99%の兵器、衛星、レーダー、通信機器、一般人のスマホに至るまで4Thワールドカンパニーの部品、もしくは製品が使われています。私達の敵が、この星の人知を超えた存在なら、何をやったのか想像もできません」
「兵士は、オーク、ゴブリン、魔獣の混成部隊どす」
乙姫が、指を手刀の形にて、ちょっと動かすと、スクリーンに兵士達の顔が写った。
ゴブリンが、近未来的なスーツに身を包み、サブマシンガンを装備している様など、誰が想像する?
◇ ◇ ◇
「蚩尤さん、何故、必ず魔族が負けて天上神が勝つのか、その理由は分かりますか?」
私は旗艦の艦橋から地上を見ながら呟いた。
「さあな。ただよ、次から次へと新手が来るんだよな。あれには参ったぜ」
「そうです。天上界は、蓬莱石で作るルートを使って、他の平行世界から、勇者と称して際限なく派遣するですよ。仙人たちを一緒に。そして勝った所だけを歴史に残し、後は綺麗さっぱり消し去るのです。だから、天上界が常に勝っているように見えるのです」
私は窓ガラスに映った蚩尤を見た。思い当たる節があるのだろう。軽く頷いている。
「正義が勝つと彼らは言うが、勝った方が正義。勝つまで続けて、負けた事実は消し去る。魔族と天上神とどっちが狡猾か分かりませんね」
易姓革命の時もそうだ。姜子牙と妲己の他に、六人の転生者が転生・転移していた。付いていた仙人は、私が密かに八卦真陣に誘い込み消滅させ、転生者は、密かに殺されたり、煮殺されたり、炮烙の刑で殺された。しかし、武王と姜子牙が紂王を討伐し、万華が妲己を別世界に転移させ、天界側が勝利すると、蓬莱は歴史から六人を消し去った。
「ルートが天上神の力の源泉か。で、会長さんは、蓬莱石を盗んで、自前のルートを作ったってことか」
「おや、人聞きの悪いことを。勇者も魔族から宝物を盗むではないですか。それと同じです。まあ、構いません。勝てば、正義なのですから」
「ふーん」
蚩尤は、納得はしたのだろうが、腑に落ちた所までは行っていない。まあ、良い。どのみち蚩尤も駒の一つだ。
「常世の戦艦が現れましね。これから始まりますよ」
私は計画通り、下の兵士たちに人間の虐殺を開始する合図を密かに送った。
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