第64話 探偵 宝物探し

 ニューヨークにあったのは、偽王の冠。カリスマ性を異常に高め、実力を遙かに超えて、人を畏怖させる力があるらしい。チンピラがゴミ箱から拾い、一週間で組織の頂点に登ったようだ。高層ビル一棟を根城にしていたが、俺と万華で乗り込んでマフィアのボスになったチンピラから取り上げた。まあ、万華が瞬時に無力化したので、突入から三十分で終了。あと数ヶ月遅かったら、大統領になっていたかも知れない。


 南極には、仙豆。仙薬の一種ということだ。竜などを使役するときに使うが、普通の動物が食べると巨大化して怪獣のようになってしまう。これは乙姫とかぐや姫、それに加芽崎が急行し、豆を食べて巨大化したペンギンを捕獲した。相手が獰猛な肉食動物だったら、乙姫は荷電粒子砲で殺すつもりだったらしい。かぐや姫が宝物庫にいる神獣を飼育するのに使う首輪を嵌めて、小さくしたもよう。それでも人くらいの大きさになってしまっている。そして、それは、今、俺の横にいる。


「これで、ペンギンが神獣の仲間入りだぞ」


 俺は横にいる着ぐるみのようなペンギンを見ながら呟いた。


 そして、三つ目、北海道にいたのは、一角神馬。雷を起こし天空を翔る。これには、俺達と合流した湘賢、レフリー、ナリーナで向かった。かぐや姫の推測だが、天上界から、何処かの平行世界の勇者に贈られるはずだった馬らしい。見た目、ユニコーンに似ているが違うとの事。


 その理由をかぐや姫に聞くと、

「ナリーナちゃんを背中に乗せてるやん。ユニコーンは、童貞・処女しか乗せへんのよ」

と答えた。


「 …… ふーん。あっ、そう」


 そして、最後のサハラ砂漠の宝物、これはかぐや姫にも分からない。異常に妖気が強く、他のどの宝物より危険な物らしい。


「加芽崎、最後の宝物を回収したら、ゴールデントライアングルに行くそうだ。如何した? 余り浮かない顔だな」


 俺は加芽崎に向き直り、声をかけた。


「ええ、私、この数日間で分かりました。私達が相手にしているのは、人間じゃどうにもならないってことを。でも、万華ちゃん、乙ちゃん、かぐやちゃんは、何故、私達を同伴させようとするのかしら? 逆に足手纏いになるんじゃないかと」


 確かに仙人達だけで、魔物を制圧すれば容易いはずだ。転生者を守りながら魔族と対峙する必要はないと感じるのも当然だ。


「万華が、転生者は蓬莱の仙人の拠り所だと言った事がある。多分だが、価値の基準をその世界の転生者に置いていると思う。彼らは飛び抜けた力を持っているが為に、価値基準が分からないだろう。例えば、蟻と人間。蟻から見れば人間は、論外の力の持ち主だ。だから、人間基準で蟻の世界の事を助けると行き過ぎてしまうだろう。蟻の身になって助けるってとこかな」


 記憶の継承、これも万華からきいた事がある。仙人達の活躍も、その仙人達も、任務が終了してこの世界から去ったとき、人々の記憶から消えてしまう。朧気な存在となってお伽話の一部になるのだ。しかし、全ての記憶が消えてしまっては、その世界の人々の経験に残らず発展しない。仙人と同じ体験をし、知識の一部を引き継ぎ、歴史にするために転生者と一緒に行動するとも聞いた。

でも俺は、記憶から消えてしまうのが寂しい。万華の事も記憶から消えてしまう。俺はそのことは加芽崎には言わなかった。


   ◇ ◇ ◇


「蚩尤は、今どこに居る? 」


 インターフォンを使って秘書に聞いた。


「“訓練場にいらっしゃるかと思います。お呼び致しましょうか?”」

「ああ、そうしてくれ」


 私は、窓の外に広がるジャングルを眺めながら、蚩尤を待った。空を飛べば、直ぐに来られるだろうが、蚩尤はこの世界の人間の乗り物を楽しんでいるようだ。多分エレベータを使うだろう。


「随分と長い時間がかかった ……」


 ここに流罪になった後、私は勇者が現れたと噂が立った場所に飛んでいった。古代エジプト、古代メソポタミア、古代ギリシャ、何処にでも行った。もし、その勇者が転生者ならば天命を受けている。私は同伴の蓬莱の仙人に助力し、上天仙として返り咲く事を願って、完全な形で素早く完了させた。しかし、何回やっても、何年経っても、返り咲くどころか流罪さえも解けなかった。


 いつまでも、私を無視し続ける天界に怒りを覚えた。ついには『ならば、振り向かざるおえないようにしてやる』と考えた。


 そこで目を付けたのが、商王朝の紂王だ。この王を魔王に仕立て、その魔力が天界を突く程に巨大化したときに、私がそれを討伐し、上天仙として返り咲く筋書きだった。ところが姜子牙と万華が現れた。何度も罠にかけて邪魔をしたが、最後には紂王を打ってしまった。それどころか、私の行動が天上界に知られそうになり、それから千年、身を隠したのある。


 そして、長い隠遁の後、転生者を探し、今度は注意深く仙人に近づいて、都合の良い事を信じさせて配下にしていった。その者達に蓬莱石を盗ませ、蓬莱のルートを破壊させ、そして、あれを運んできた。


 今度は、天界に返り咲くなど、ちっぽけな物ではない。天界、その物を滅ぼす。


トルルルル・トルルルル 


「蚩尤様がお付きになられました」


   ◇ ◇ ◇


「人間の乗り物もすてたもんじゃねぇな。車、飛行機、列車にエレベータか。俺が居た頃は、馬車があるかないかだったぜ。それで、呼んだのは、なんだ」


「蚩尤さんに、サハラ砂漠まで同行して欲しいです。ある物を運びますので、その護衛をお願いしたい」

「ほう、その物ってのは転移できねぇ、事だな。それは、相当の魔力を持った物なのか」

「そうです。相当の妖力が込められています」

「何のだ? それは」

「妖槍ゲルンガン」


 第四平行世界の妖魔王の一族が数千世代に渡って、妖力を込め、それこそ数え切れない程の種属の血を吸った槍。アシュを罠にかけたとき、奴が面子など、かなぐり捨てて持ってきていたら、私は槍の一部となっていたに違いない。その妖力の前には人は勿論、仙人でさえも死を免れない。それ程に強い妖力の為に転移しても、出現地に誤差が生じてしまうのだ。第四平行世界から、この星に転移させたが、サハラ砂漠に落ちたのは、むしろ幸運だったといえる。


「ほう、俺が必要な訳は?」

「多分邪魔が入ります。その邪魔を阻止できるのは、蚩尤さんしか出来ません。どうかお願いします」


 私は、蚩尤に向かって頭を下げた。


「分かった」


 半神といえども、我が詐術の前では子供同然だな。

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