第63話 探偵 宝物鑑定人を知る

「加芽崎、如何した? 」


 俺は、ふくれ面をしている加芽崎に声をかけた。


「乙姫さん、ゴールデントライアングルには、まだ、行けないって言うです」


 加芽崎は、ゴールデントライアングルにある4Thワールドカンパニーの研究施設には、連れてこられた異世界人が監禁されていると踏んでいる。急行して事の真相を確認し、場合によっては政府、国連を動かして保護しようと考えているようだ。それで、この船で急行してくれと頼んだようだが、その前に片づけることがあると、取り付く島も無く断られた。そこで、何処かで下ろしてくれと頼むと、『優香はんを狙うてるのは、人間や有らしまへん。魔族、妖族の類いどす。せやさかい、ここにおった方が安全どす』と言われたらしい。


「乙姫さんは、私より年下に見えるのに威厳が有ると言うか …… 天女だからでしょうか」


「加芽崎、見た目に騙されては行けないぞ。万華も四千年生きてきたと言ってたしな」

「そうなのですか」


 加芽崎は首を傾げて答えた。そう言えば、加芽崎って幾つなのだろうか。捜査員としてはかなり経験を積んでいるように思うが、見た目は二十歳代に見える。加芽崎自身、見た目と実力にギャップがある。


「なんですか? その目は」


 マジマジと見てしまったのに気付いたらしい。俺は頭を掻きながら横を向いた。


「権さん、いやらしい」


 俺の後ろから声が上がった。何時やって来たのか、ラッキーを抱えた万華が俺の後ろにいた。


「万華、お前、いつの間に …… それにいやらしいってなんだ。それは誤解だぞ」

「言い訳するところが、また怪しいやん。このスケベオヤジ」


 いかん、いかん。万華の口車に乗っては深みにはまってしまう。話題を変えなければならん。


「そんな事より、万華、この船は、何処に行くのだ? 乙姫はやる事があると言ったようだが」


 俺は、抱えていたラッキーを下ろした万華に聞いた。


「ん? そうやって話しをそらすんか。まあ、ええか。なんや、やばいもんが、まだまだ、落ちてるけん、それを拾いに行くんやて」


 牛頭巨人に、魔王の道具、蓬莱の玉の樹、確かにこの地球にあると不味い物ばかりだった。


「やばい物って、なんだ? 」

「それは、天上界から来る宝物鑑定のスペシャリストに聞いたらええちゃうか。そろそろお出ましやろ」


 宝物鑑定のスペシャリストか。白髪で、長い白髭、長い杖をついた老人のような感じか。そう、この世の宝物にかけては第一人者と言う学者風の仙人とか。あまり気難しくないと良いけどな。


 すると、船の中なのに、天井から光りがさして、何かの花ビラがヒラヒラと落ち、神々しい者が降りてくる。光ってよく見えない。


 俺は、あまり眩しさに、無意識のうちに手で遮った。


「ヤッホー、万華、元気やった? 権さんは相変わらず貧乏くさいカッコやなぁ」

と俺は聞き覚えの有る声を聞いた。


   ◇ ◇ ◇


「かぐや姫、なんでお前が居るんだ? それより宝物鑑定のスペシャリストの仙人は、何処にいらっしゃるんだ? 」


 俺は空を見ながら、かぐや姫に聞いた。


「なんでって、権さん、えらいな言い方やなぁ。ウチは宝物調査に来たんどす。ウチが宝物鑑定のスペシャリストの天女どす」


 俺は万華を少し離れた所に連れ出し、小声で聞いてみた。


「万華、かぐや姫、大丈夫か? 」

「疑っとるんか? ああ見えても宝物に関しては一流やで」

「そうじゃなくてだな。俺が聞きたいのは、今度はちゃんと許可を貰って来ているのかと言う事だ。さっきここにラッキーがいただろう」


 俺は、加芽崎にお辞儀して、自己紹介をしているかぐや姫を遠目に見ながら聞いてみた。


「大丈夫や。今回は正式な派遣やで。まあ、布袋先生や他の教授陣は、ここ以外の並行世界に出払っていて、かぐやしかおらんかったやけどな」


 俺が万華と喋っていると、かぐや姫が、フワフワと飛んで近づいてきた。


「権さん、万華と何話しているんや? 」


「あっ、いや、これから何を探しに行くのかなーってな」


 俺は、万華に口を合わせるように合図を送った。しかし万華の目は笑っている。


「権さん、かぐやがほんまの宝物鑑定のスペシャリストか疑っているやで」


 失敗だ。万華は面白おかしく話しを混ぜ回すのを忘れていた。ここで否定しても、万華がまた話しを攪乱するに違いない。最初から正直に言えば良かった。俺は万華の顔を睨んだが、当の万華は両手を頭の後ろに当ててそっぽを向いた。


 ちょっと悪い事をしたと思い、謝ろうと顔を向けると、かぐや姫は手を腰にあてて胸を張った。


「権さん、任しとき。ウチの式神は優秀やし、ここに布袋先生からもろてきた新しい探査術式の書き付けがあるさかい …… 」


 さっきの俺の話は気にしてないようだが、袂の中をごそごそと何か探している。左の袂、右の袂、帯の前、後ろ、胸の中、ついには長い天女の衣をバサバサとする。


「あれ、へんやな」

「かぐや、また、落としたんちゃうんか」

「えー、そないなこと無いはずや、確かここに入れてきたはずや …… 変やな …… 」


 加芽崎もやって来たが、事情が分からず黙っている。竹取物語で、地上に来た理由が、かぐや姫自身のドジが原因と知ったらどんな顔をするだろうか。一方のかぐや姫はもう半べそをかいている。


「万華、どないしょ、なくしてもうた」

「術式、覚えてへんのか? 」

「書き付けがあればええと思って、予習してへん …… ふえーん。どないしょ。万華」

「しゃないな。ウチが布袋先生のとこ行って、もろてきてやる」


 万華にはこう言う優しさがある。何時もは悪戯ばかり働くが、いざという時には頼りになる姉御肌、それが万華だろう。その万華が、タンクトップ、ショートパンツの姿から、天女の姿に変わり、飛び立とうしたその時、空間が光り、パッと乙姫が現れた。


「かぐや姉様、これ、かぐや姉様のもんちゃいますか? 」

「ああ、それや、良かった。おおきにな、乙ちゃん。あぁー助かった」


 乙姫が差し出したのは、所謂、竹簡。結構大きい。あんな物、落として分からないだろか。


「機機関室の船員が届けてきたんですわ。なんで、そないなとこに思ったやけど、お姉様の名前が書いて有りました。それで、お姉様のことやさかい、大方、ここに来る前に間違えて機関室に出てもうたのやろうと思ったんどす」


「ああ、そうやった。変な所に出てしもうて、慌てて転移し直したんやった。そんとき、落としたやな。気づかんかったで」


 それを聞いて、俺は、かぐや姫は、やっぱり、ちょっと抜けていると思った。


「それに万華お姉様、もっと良く調査してから、行動なさった方がええんと違いますか? お姉様はやる事なす事、五月蠅うて敵いまへんわ」


 おお、万華に対して、中々言うね。これが湘賢なら血の雨が降るな。


「チマチマ、探すより、有ると分かっているところに行った方が、早いやろ。たまたま、この船にあっただけやんか」

「お姉様、先ずはこの船の艦長であるウチに聞いてから、行動しても大してちがいはあらへんと思います」

「ううーん。分かった、分かった。今度からそうする」


 おお、万華が折れた。百戦錬磨の万華が、暴力に訴えずに意見を引っ込めることがあるのか。恐るべし、砲撃娘の乙姫様。


「それより、何をさがすんや。かぐや」

「ああ、ちょい、お待ちください」


 かぐや姫は、探査術式と言う物が書いている竹簡を空中に投げた。すると独りでに開き、そこから、漢字のような、記号のような文字と幾何学模様が現れた。かぐや姫の指が複雑に動き印を結んでいる。さっきの泣きべそ顔と違い、仙人の風格がある。


 そして、文字が並び、複雑な図形が現れた。


「地球の座標に直しや」


 かぐや姫が言葉を発すると、光りで描いた地球儀がでて、複数の小さな点と大きな四つの点が現れた。大きな点の一つは南極、一つはニューヨークマンハッタン、一つは北海道、そして最後は、一番大きくてぼやけているがサハラ砂漠の辺り。


「大小の点が現れたぞ。これ全部回収して回るのか? 」


 うんざりするほど多い。するとかぐや姫が大きな点を示した。


「この点の大きさは、魔力、妖力の強さを表します。小まいのは、式神たちが回収しますが、おっきな四つの宝物は、ウチらで回収しに行く必要がある思います」


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