降臨、そして終結
第66話 探偵 闘いの火蓋を切る
これは罠だ。
大スクリーンに映し出されていた軍隊が、捕らえた住民を虐殺し始めた。乙姫のステルスドローンに見せつけるようにしている。
俺達をおびき出すためか。しかし、何故?
「権さん」
万華は怒りに震え、俺を見てきた。
「止められるか? あの軍隊を」
しかし、どう考えても、罠だ。宝物のぶんどり合戦なら、関係の無い住民を巻き込む必要は無い。しかし、俺は万華を止められそうに無い。
「任しとき」
万華は胸に手をあてて、鎧姿に変わり、髪の毛を纏めていた組紐は、長く白い槍に変わった。
「レフリーとナリーナさんは、負傷者の救護をお願いする。乙姫さんは、敵の機動兵器の破壊を、万華は魔物を討伐、湘賢君は、空から皆の支援をお願いする。俺と加芽崎は万華が討伐した後の街へ行き、残党に対処する」
「千野はん、ウチは如何すれば良いんや?」
かぐや姫が心配そうに聞いてきた。しかし戦闘向きではないかぐや姫を前線に出すのは無理だろう。それより、正体不明の宝物だ。敵は罠を張っているとすれば、あれが関係するかもしれない。
「かぐやさんは、あの宝物の正体を分析して欲しい。あれの正体が分からないとドンデン返しがあるように思う」
「了解どす。宝物鑑定士として全力を尽くします。ああ、加芽崎はん、これ持っててぇな」
かぐや姫が出したのは、俺のと同じS&W M500のようだ。違うのは、グリップに丸に『天』の刻印。俺から見ると、ちょっとかっこ悪い。
「天界仕様の特別品どす」
「有り難う。うれしいです」
準備は整った。
乙姫は、二角帽にネルソンコートに変わり、
「総員戦闘配置! 目標、敵機動部隊。荷電粒子砲に誘導術式付与。ピンポイントで攻撃する。両舷砲門を開き一斉射撃、打て! 」
「湘賢、頼むで」
「脳筋に言われんでも、分かっとる」
乙姫の砲撃命令を合図に、万華、湘賢はレフリーとナリーナをつれて、船外に出て飛んで行ってしまった。
「私達は如何するんでしょうか」
「加芽崎はんと千野はんは、一角神馬に乗っとぉくれやす。それからペンちゃん、二人を守ってな」
俺達は裸馬に跨がると、床が抜けて、空に落ちた。後ろから、飛べない鳥が落ちてくる。
「うっわー」
◇ ◇ ◇
万華は、前線では無く、兵が一番集まっている軍中央に落ちた。小さい隕石が激突したと言って良い。衝撃波が魔物の兵士達をなぎ倒し、粉砕した石や砂が音速に近いスピードで魔族を貫いた。
そして、砂埃が収まる前に、飛び上がり、100m程の長さになった槍を地面に叩きつけ、横に薙いだ。
「なんや手応えがないやん。骨のある奴はおらへんのか? 」
オークの部隊が何かを叫んで、銃を向け撃ってくる。それを万華はクルクルと回りながら躱し、数発の弾丸を弾き返して、オークを逆に仕留めた。
そして、槍先を前にして、疾風のごとく、兵達の間をすり抜けると、小麦畑を一直線に刈ったように筋が出来た。そしてなぎ払い、丸く刈られた。
上空では、魔族の戦車が放った砲弾がドラゴンズパレスに打ち込まれる。しかしその弾の殆どは、乙姫の結界によって、波紋を描きながら消え去る。一方でドラゴンズパレスが放った荷電粒子弾は、ギューンという独特の音を発しながら、地上の戦車、対空砲に向かって落ちて行く。そして小さな破裂音とともに対象物は、ほぼ消滅した。
——— 4Thワールドカンパニー 旗艦 ———
「おい、何か戦況悪いぜ。俺が行ってやろうか」
蚩尤は、艦橋のディスプレイに映った自軍の様子を心配して、公豹に話しかけた。しかし公豹は余裕の態度で答える。
「そうですね。蚩尤さん、あの娘とちょっと遊んで来てやってください」
蚩尤はニヤリと笑い、
「では、行ってくる」
と答え、飛んで行った。
蚩尤が去った後、公豹は椅子から立ち上がり、虚空に印を描き妲己を呼び出した。
「さて、妲己さん、私達も行きましょうか。良いですか、今回は、食べるのは無しですよ」
すると闇の中から、赤いタイトスカートに白いブラウスの妲己が現れた。
「畏まりました。ご主人様」
◇ ◇ ◇
——— 捕虜が捕らえられている村 ———
俺は、自分の目の前に指四本を立てて、反対側の壁に居る加芽崎に合図を送った。加芽崎も、それに答えて頷く。
部屋の中には武装したゴブリンが四体、捕虜の前に立っている。しかし、幾ら未来武装したとしても、やはりそこはゴブリン。周辺を警戒せず、捕虜を食べたそうに涎を垂らして見つめるだけだ。
「GO!」
俺は小声で合図を送り、前転してS&Wで二体を仕留めた。ほぼ同時、加芽崎も前転して天界仕様のS&Wで仕留めた。
「あれ、お前が撃った方は消えて無くなったぞ」
「これが、天界仕様ですかね」
「まあいいや、湘賢に合図を送れ! 気を抜くな」
加芽崎が建物の外へ行った後、部屋の中を見回した。良かった。怪我はしているが生存者だけだ。ここに来る前に酷い物を見てしまい心配したところだ。それにしても加芽崎が、あれを見ても余り動じなかったのには驚いたぜ。
俺達で生存者の応急手当をしていると、レフリーとナリーナがやって来た。
「「「「「ギャー、助けてくれ。娘だけはどうかお許しを」」」」」
その時、部屋の外で悲鳴があがった。そう遠くない。
「レフリー、ここを頼む」
俺はレフリーが頷いたのを確かめ、加芽崎と声のする方に向かった。いくつかの路地を曲がると、屋根が抜け落ち、壁も殆ど無い一画に着く。そこにはオーク、五体。それに現地人とその娘か。オークが娘を犯そうとしている。
「ちぇ、お伽話と同じだな」
「異界転生のラノベじゃないですか?」
「どっちでも良い。右の三体は俺がやる。行くぞ! 」
俺と加芽崎は左右に分かれて、この時もほぼ同時にオーク達の頭に、仙術の掛かった弾丸を打ち込んだ。オーク達は悲鳴も上げる事なく、その場に倒れた。さっきと同じで加芽崎が撃った方は消える。一体どう言う仕掛けなのか。
「大丈夫だ。もう安心しろ」
俺は娘のオヤジらしき人物に声をかけた。加芽崎は、近くにあった布きれを娘にかけている。
「ありがとうございました。このご恩は一生忘れません。ありがとうございました。ありがとうございました …… 」
オヤジはよほど嬉しかったのか俺にすがってくる。うーん、ちょっと鬱陶しい。
「千野さん、後ろ! 」
加芽崎が、突然叫んだ。俺はもの凄い力で、両腕もろとも締め付けられた。
不覚。
オークがまだ居やがった。このシチュエーション、前にもあったような気がするが、今回はS&Wを落としている。それに後ろのオークは加芽崎が撃てないように、俺を盾にして隠れている。
「離しなさい。さもないと撃つわよ」
加芽崎は隙をうかがっているが、オークは頭を隠して打たせないようにしているようだ。くっ締め上げる力がさらに増してきた。息が出来ない。畜生め。俺は力の限りもがいたが、駄目か。
「加芽崎、この人達と逃げろ」
俺は息苦しいなかでも何とか言葉を発して加芽崎を逃がそうとした。くそと思ったそのとき、背後から、霧笛のような鳴き声がした。
「ボエー、ヒッ、ボエー、ヒッ、ボエー、」
すると、俺を締め上げていたオークの腕が緩んだ。尽かさず俺は頭を低くすると、ドキューンと加芽崎が撃った。
助かった。
両膝に手を置いて屈んで、息を正していると、加芽崎が、俺の後ろの誰かに語りかけた。
「ペンちゃん、有り難う、偉いわね」
おお、ペンギンではないか。これでお前も名実ともに神鳥の仲間入りだな。S&Wを拾い周りを警戒する。今度こそ残党はいない模様。
そして驚いて尻餅をついているオヤジを起こそうと手を差し出したその時、
「“千野はん、そいつから離れるんや”」
と湘賢の声が頭の中に響いた。
「ちっ、仙人が気付いたか」
尻餅をついているオヤジが呟いたかと思うと、そいつは湘賢と同じ衣装に替わり、払子を一振りしてペンギンを吹き飛ばした。娘の方は大狐に変わり、加芽崎に爪を浴びせる。
「加芽崎! 」
不味い、血が噴き出している。俺は駆け寄ろうとしたが、動けない。さっきのオークとは違い全身が動かない。もう声もでない。
「あら、殺しちゃったかしら。ご主人様、食べて良いでしょうか? 」
「駄目だ。この男を洞窟に連れて行くのが先だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます