第7話-1 探偵 作家の正体を知る

 万華が、で帰った後、久保田の塞ぎ込みようは酷かった。仕方がないので、俺のおごりで、一泊することになった。


 ブー・ブー・ブー


「誰からの電話だ? 知らない奴だな…… はい、千野です」

「”権さんか? 万華やで”」


 万華は、いつの間にスマホを買ったんだ?


「”権さん、歳幾つや?”」

「何だよ、藪から棒に。この世界での年齢は40だが。転生者としての本当の年齢は知らん」


「”この世界での誕生日は何時や?”」

「明日、2月23日だが。だからそれが、なんだ?」


「”やっぱり明日か。しゃあない”」

「だから、何なんだよ」


「”権さん、よぉ聞き。あんた狙われとる。上坂京子にや”」

「は?」


 万華によれば、上坂京子は恐らく転生者食いとかいう奴だろうと言うのだ。奴らは、その妖力を最大にするために、転生者が特定の年齢になった時に喰らう。俺の場合、次の誕生日がその日、つまり明日。


 この為に、仕事の依頼と称して、士佐山を不審者に見立てて俺に接近してきた。この年になって誕生日を祝って貰えるとは嬉しいね。


 その士佐山は、上坂京子を自分の金の女神と思い込んでいて、間に割り込んだ俺に腹を立てて犯行に及んだだけ。しかし、上坂京子にしたら怒り心頭だっただろう。そして、俺が生きていることを知って小躍りしたに違いない。


 士佐山や他の犠牲者は、単なる食事で、小説のサイン会で吊って、めぼしい者を妖術で籠絡しておき、必要なときに遊びながら喰ったと言うことだ。


 そして、上坂京子の正体は、

「”蘇妲己やと思う”」

と言う事だ。


———遙か昔の中国 商の時代、紂王を唆して悪逆非道の限りを尽くした妲己だが、実は神の命令で易姓革命を行うために派遣された転生者だった。


 妲己はこの平行世界の狐に逆憑依し、商の時代を終わらせるどころか、人を殺し、喰らい、神を冒涜する始末。これに対して、神は他の転移者を送り込むも餌食になり、妲己の力は増すばかりだった。しかし最後に送り込まれた姜子牙、後の太公望は天女の力を借りて紂王を撃破、周王を立てて易姓革命を果たす。

 そして妲己は、天女によって、この第三平行世界から別の世界へ転移させられた。


 因みに憑依され、妖狐と化した狐は、妲己が取り除かれた後も、その後の歴史の中で何度か悪事を働く。最後に玉藻前として時の天皇を籠絡するがこれも武将に討ち取られ殺生石となった。


 妲己は如何やったのか、この第三平行世界に舞い戻った。その時、むかし自分が憑依した狐の殺生石に現れ、新しい依り代を待っていたのだという———


「”権さん、権さんは妲己を倒す目的で神さんから送り込まれておらへんし、その能力ももろてへん。せやから、妲己に対抗するのはめっちゃ危険や。ウチが何とかするけん。ウチが行くまで逃げ切ったったれや。しかし妲己に対抗するには如何しても奴が必要や。領巾ひれ 第一世界 西方西海大竜大王 太白龍 を探してから行く”」

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