第7話-2 探偵 逃げる

 俺は、万華からの電話の後、しばし放心したが気を取り直し、

「おいおい、なんてことだ。久保田は置いていくか。千野 権蔵 41歳、この年でこんな冒険になるとは、よっしゃ」


 服、服、ズボン、ああ、キー。


「ボス、何処にいくですか?」

「久保田、あ、いや、危険が迫っている。直ぐに出る必要がある。しょうが無い、良いか死を覚悟しろ」

「ええ、どっかのとやっちゃたんですか?」

「いいから、車にのれ。早く」

「えっ、僕、浴衣ですよ」


 久保田が自分の部屋に戻り、服を抱えて駐車場に降りてきた。


「ボス、寒いす」

「車で着ろ。早く乗れ」


 こんなやり取りとしていると、暗闇から、うなり声が近づいてきた。


「ボス、犬?」


 一匹ではない。うなり声はドンドン増えていく。


「久保田、助手席の背もたれを切れ。早く」

「えっ?」

「早く」

「ボ、ボス、これは」

「護身用の銃 S&W M500 だ」


———フロントガラスに巨大な狐が乗っかり、よだれを垂らして咬みかかってきた。フロントガラスはそれが吐き出す汚物で汚れる———


「つかまれ。頼むぞスバル」


 俺は、後ろに急発進し、旋回させ、フロントガラスに取り付いた奴を振り落とした。


「何匹だ?」

「えっ、何が?」

「狐だよ」

「狐? あんな大きい? ざっと10匹? 20匹?」


 那須高原線を北上だ。


「ボス、ボス、狐がくっ付いて大きくなっていきます。何なんですかあれは」


 ドン、と後ろから打つかってきた。その衝撃でリアガラスが割れた。


「撃て」

「えええ、無理ですよ」

「馬鹿野郎、撃て!」


ドキュン

と撃つと、久保田は反動でひっくり返った。


 バックミラーで見ると化け物は一瞬ひるんだだけだ。


ハッハッハッ

と肉食動物が走るときの息づかいが聞こえてくる。


「こいつら、遊んでやがる。畜生、俺達、狩られているだ」


ドン

横からぶつかってきた。ハンドルを取られる。


「ボス、囲まれました」

「良いから、撃て」


ドキュン


 久保田は、また、反動で吹っ飛んだ。


 俺は、スバルのタイヤを鳴らしながら、暗い道を進んだ。

 

 すると前に人? 上坂京子だ。


 俺は急ハンドル切った。


「くそ。ヌあーー」


 スバルが横滑りに回転、そして天地がひっくり返った。


「うっ、久保田無事か?」

「ボス、ビックリした」

「久保田、お前は逃げろ、化け物の狙いは俺だ」


———ドアが何かの力で引き剥がされる———


「やっと、この時が来ましたわ。後、10分で2月23日よ」

と言いながら上坂京子が近づいてきた。


「この日を待ちに待ったですよ。ほんと生きていてくれて嬉しいわ」

「俺のスバルを畜生、弁償しろよな」

と俺は悪態をついた。


「あら、もう後 8分で、貴方は妾の腹の中なのよ。車の心配などする必要は無いわ。それにしても楽しみだわ。久しぶりの転生者の味」


「おい、妲己、何処で俺が転生者だと分かったんだ?」

「あら、なんでその名前を知っているのかしら」

「探偵だからな。その位は調べられるさ」


 久保田、この間に逃げてくれ


 さっきまで、俺たちを追い立てていた巨大な狐たちが、上坂京子に集まってきた。よだれを垂らし、口が裂け、腹が膨れ上がり、中から金色の何かが見え始めた。


ググルルルルッ、グハッ


———全ての狐がくっ付き、九尾が現れる———


 あれが妲己、九尾の狐か。おっこっちに来るぞ。


「よだれが出ちゃうわ。ああ、お前を何処で見つけたかだったかしら? プンプンするのよ。転生者の臭いが。だから、街で見つけたときは、嬉しくて飛び上がったわ。小説に吊られてくる奴らでは、いくら喰っても、妖力は戻らないからね」


「俺を喰ったあと、どうする気だ?」

「うふ、食べる前に教えてあげる。そうね。取りあえず、この辺の人たちも頂いたら、この国の支配階級に取り入ろうから。昔に比べると権力構造が複雑よね。でも面白いわ」


ドキューン

と久保田が撃った。


 逃げろって言ったのに。弾は外れたのか、全く動じていねぇ。


「お前はデザートだ」

と言いながら、爪を立てた前足で久保田は飛ばされた。


「久保田!」


「あら、人の心配している暇があるかしらね」

と俺は久保田を払った前足で押せ付けられた。


「あと、1分だ」

と言った後、口を大きく開けて噛みつく準備をしてきた。生臭い息と涎が俺を襲う。


万華、済まん。逃げきれなかった。


その時、辺りが明るくなった。流れ星? すい星?

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