第8話-1 万華 参上

ドーン


———何かが地面にぶち当たった音と供に衝撃波が周りに広がった。転倒したスバルのライトに埃が照らされよく見えない———


 妲己は口を開けたまま、目だけで横を見る。


 すると、また

ドーン

と今度は、何かが妲己の横っ面を殴りつけ、その妲己は残像を残して吹っ飛んだ。


「権さん、お待たせや、万華やで、間に合うて良かった」


 そこには、異世界漫画に出てくる女勇者のような出で立ちの万華が、長い槍を右手にもち、左手拳を前に突き出して空中で止まっていた。


「権さん、久保田は大丈夫か?」

と言われ、俺は我に返り、妲己の一撃でのびている久保田に駆け寄った。


「権さん、これを飲ましてやり。仙薬や」

と万華は、腰の袋を俺に投げてきた。


 俺は、袋の中から一粒、久保田の口に入れ、

「久保田、おい久保田」

と呼びかけると

「ううーん」

と反応があった。


 その声を聞いた万華は、

「よう頑張った。見直したぜ」

と励ました。


 俺は、久保田が息を吹き返したことを確認した後、転がっているS&W M500の弾倉を確認した。


 すると、その銃の向こうで、妲己が起き上がった。怒りに震えている。


「きききー、お前は誰だ! 妾の邪魔をして、ただじゃ済まないぞ、なぶり殺しにしてやる」


 暗がりでよく見えねぇが口から何かを吐いている。一部が、スバルのライトに照らされた。それは泡を立てて膨れ上がり、数十匹の獣に変わった。


「うぇ、なんだよ、あれは。おっと不味い、こっちにも来たぞ」


 ダン、ダン、ダン


 俺は三匹の眉間に鉛の弾を撃ち込み殺した。しかし、多くの獣は、虚空に駆け上がり万華を取り囲んでいる。


「万華、大丈夫か?」

と俺は声を上げた。 


 万華は俺の方をチラッと見て、硬い表情で笑った後、妲己に向き直り、

「なぶり殺し? 笑かしよんな。笑止千万とはこのことや。オノレ、紂王もその軍隊もなしにウチに敵うと思うとるんか?」

「なに? お前は誰だ」

「せやから、万華やって言うたやろう。年取って耳が遠おなったんか?」

「万華? お前、あの脳筋天女の万華か? お前のせいで、三千年間 あんな辺境の地に閉じ込められて、妾は地獄以上の苦しみを味わった。お前のせいだ」

「逆恨みはせんことやな。全部お前が招いたことや。安心しろ、その脳筋天女が、また別の平行世界へ叩き出したる」

「ひっ」

と妲己は引きつった声をあげると、周りの獣に命じて、万華を襲わせた。


 しかし、万華はサクッとそれら避けて、

「叩き出す前にちょっと聞かせて貰おうか。オノレどうやって、この平行世界に戻って来たんや? 言わないなら、体に聞くまでや」


 この時、俺は万華の影の一面を見た。


 人殺しの目

 殺戮者の笑み


 何人もの転生者を退けた紂王とその軍を殲滅したのは万華なのだと、その時、悟った。


 妲己はさらに奇怪な悲鳴を上げ、空を飛び、噛みつき、爪を立てた腕を振り回した。獣も襲いかかるが、万華は長い槍を起用に回しそれを受け、たたき落としている。


 妲己は口から火を吐き出し、そこら中を火の海にし始めた。その顔には、恐怖が浮かんでいる。


 おっと、火が此方にも迫ってきたぜ。


「不味い。久保田、久保田おきろ」

「うーん」

「しょうがないな」


 俺は久保田を肩に担いで移動した。


「おい、妲己、こっちや。ウチの質問に答えろ」

と言った後、また瞬時に妲己の顔近づき、蹴りを入れた。妲己は残像を残し、吹き飛ぶ。


「ウチには、火は通じんこと知っとるやろう? 忘れたんか? 歳は取りたくないな」

と言いながら、万華は長い槍を妲己の手に突き刺した。


「ギャー」

と悲鳴を上げるのは妲己だ。


 妲己は刺された方とは別の手で反撃を試みるが、それも躱され、槍で貫かれた。


「妲己、尾っぽも一つずつ、刺そうか? どうやって、ここに来よった?」

と不気味な笑みをたたえて、尾の一つに突き刺した。


 妲己は刺された尾を自ら切り離し、

「キー …… 今日は引き上げてやる。今回は不意を突かれたが、次はこうは行かないぞ」

と言った後、クルクル回り出し、小さくなって消えた。


「なんや、どうやって戻ってこれたのか聞けなんだ」


 その時は、何時もの万華に戻っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る