第56話 探偵 頼られる(4)
「万華ちゃん、如何かしら」
「ええやん。その色、ミコちゃんに、よう似合うと思うで」
夏休みに入って受験組の息抜きにと、ラノベ研で横浜にやって来た。ショッピングにお茶。ウチは飲まへんけど。あほ話に花を咲かして街を歩く。みんな、箸が転がってもおもろい盛りやさかい、笑いが止まりまへん。
「万華、万華、あれ見て。万華の叔父さんじゃないの」
と章子ちゃんが指差した方を見ると、権さんが居るやんか。それも優香姉ちゃんと。
「むひひひ」
「万華、急に何、その顔。可笑しい、ハハハハ、ハー、僕もう、笑いすぎでお腹が痛い」
と明美ちゃんがお腹を抑えて笑いかけてくる。
「章子ちゃんが、おもろいもん、発見したんや」
「叔父さんのこと? 女の人といるみたいだわ」
と章子ちゃんは冷静に分析した。
「ひょっとして、恋人?」
とラブコメ好きのミコちゃんが顔に似合わず、妄想を広げている。
「まあ、そんなところや。みんな、ええか、見つからんよう、着いて行くで」
ウチ一人なら、誰かに化けて尾行するところやけど、皆がおるけん、看板や曲がり角で隠れるしかあらへんな。
それにしても、二人、よそよそしいやん。権さん、年の差なんか気にすることあらへんで。もうちょい、近づき。せや、そこの店は趣味の良いバック 置いてるで。『この店は、優香に似合うバックが置いてある。プレゼントしよう』くらい甲斐性、見せんかい。
あー、通り過ぎたやん。
おっ、次の店で止まった。そこは高級ブランドやで。権さん奮発するんやな。ウィンドウ越しに服、眺めてへんで優香姉ちゃんの肩をだけや。そして『優香に似合うと思うぞ。この服を着て、今度食事でもどうだ? 』くらい言えるやろ。なんやそのビジネスライクな仕草は。あーもうじれったいやん。
「万華ちゃん、さっきから顔が変よ」
とミコちゃんが、マジマジとウチの顔を覗き込んで言ってきた。
「そうやろか。でも、探偵を尾行するのは楽しいな」
とちょい、はぐらかした。
「そうね、なんかワクワクする」
とミコちゃんは、両手を結んで顎の下に持って行き答えた。
ミコちゃん可愛い仕草するんやな。
ん? なんやあの男は。ウチら以外に二人を着けとる奴がおるやん。誰やあれは。
◇ ◇ ◇
「加芽崎、依頼の件は追って打ち合わせたい」
「分かりました」
ゴールデントライアングル同行調査依頼は驚いたが、加芽崎の話しではアルタ貿易の貨物船が出港したのは、ヤンゴン近くの港だということ。そして、内陸のゴールデントライアングルから少し離れた場所に4Thワールドカンパニーの研究施設があるそうだ。
ゴールデントライアングル。ミャンマー、ラオス、タイの三国の国境がせめぎ合い、その昔は麻薬の一大生産地だった。近年取り締まりが強化され、昔の悪の巣窟という影は薄れた。
しかし、十年前、4Thワールドカンパニーは現地政府に付け入って山奥の広大な土地を購入し治外法権の施設を作った。その広さは、町と言える大きさで、自前の軍隊を持つ独立国のような場所となっている。当初から何か怪しげな兵器を開発していると各国の諜報部がマークしていたと言う事だ。
「私達はNPO団体として現地住民の支援に向かう形となります。旅費などはお気になさらず」
と加芽崎は言う。
事件の真相に迫る意味で『虎穴に入らずんば虎児を得ず』は必要かも知れないが、『飛んで火に入る夏の虫』になる可能性が大きい。とは言え、アラキタ倉庫に突入した俺が選択するのは、やはり、『行く』の一択だな。
「ところで、加芽崎。気付いているか?」
「はい。男二人組と女の子達ですね」
「女の子達は心配ないが、男達から引き離したい」
万華がいることは分かっている。
俺達はショーウィンドウ越しに、服を見ているようにしながら、ガラスに反射している影を観察していた。
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