第34話 万華 勝負を受ける

 ルート崩壊事件から、だいぶ経っているので蓬莱の樹は、根を張って大きくなっている。もし都会に落ちていれば、直ぐにニュースになるはず。それが無いと言う事は、恐らく山の中に落ちたというのが、万華の見立てだ。


「万華、場所は鈴鹿峠の辺りじゃねぇか。ほらこの記事」

 

 俺はロビーにあった新聞を広げて見せた。そこには万華の推理を裏付ける証拠が載っていた。


『鈴鹿峠近くで記憶をなくした4人の男女が発見される。現代の神隠しか?』

と記事の見出しあった。


「間違いないやろ。今日は晴れてるけん、上空から千里眼、使つこおて探してみる」

「俺は、如何すればいいだ?」

「権さんは、あまり近づかん方がええで。今より物忘れがひどなったら、久保田が可愛そうや」


「ばっかやろう。俺は物覚えは至って正常だ」

と抗議したら、万華はニヤッと笑い、

「そうけ。もうちょい、おちょくったろ思たけど、時間が無いしな。また今度や。ほいでや、権さんは、かぐやと鈴鹿峠近くに移動してなぁ。スマホで呼ぶけん」


 そして、万華は、ふわりと飛び、ドンと衝撃音を残して飛んで行った。

 俺は、他の客に見つかったじゃねぇか心配になったが、そこには誰もいなかった。


   ◇ ◇ ◇


 万華は、千里眼を使いながら、鈴鹿峠の上空を飛行した。すると、きらりと光る金色の樹を見つけた。


「あー、見つけた。やっぱり、えらい大きゅうなってるやんか」

と呟いた後、蓬莱の樹の近くに降り立ち、

「おーい。蓬莱の玉の樹の精霊、おるか?」

と声をかけた。


 すると蓬莱の玉の樹は、風もないに🎶シャリーン、🎶シャリーンと鳴りだし、万華の頭の中で、女性の声で答えた。


「”誰だ? 私を呼ぶのは。記憶が消えないということは、人の子ではないわね?”」


「そうや、蓬莱の万華や。忘れたんか?」

と万華は樹に語りかけた。


「”悪ガキの万華か。いつも、かぐや姫とつるんで、男とふむふむしてた奴ですね”」


 それを聞いた万華は、宝物庫でのふむふむの場面を思い起こした。すると横に盆栽があったこと思い出し、見られていたと顔を赤らめた。


「はて、何の事やろか。そんな昔のこと、とうに忘れたわ」

「”忘れてないでしょう? その証拠に顔が赤いではないか”」

と言い返してきた。


 万華は、この件で深入りすると、自分が不利になると思い、早々に話題を変えることにした。


「まあ、その話はええやん。そんなことより、あんたさんは手違いで、ここに落っこちて来たんや。それで天界に戻すけん、根と枝を小そうしてくれへん」


「”嫌です。ここで伸び伸びと根を張るのは、とても気持ちが良いので”」


 万華は、蓬莱の玉の樹が拒否するだろうと予想していた。しかし、このまま蓬莱の玉の樹が大きくなり、記憶喪失の人々が増えると、絶対に天界が対策に乗り出してくる。その時は、万華に討伐の勅命が下るか、他の奴が来るかもしれないと思った。

 かぐや姫が何時も気を遣って育てた樹である。万華としても穏便に済ませたかった。


「せやけどな、記憶喪失の人が増えたら、大変なことになるで。かぐやが後から来るさかい、一緒に戻った方がええやないか? そうせんと、もっと怖いもんが来るで」


「”そうですか。ドジ娘も来ているのですか。うーん、恐ろしい奴とは会いたくないですし、帰っても良いのですけど、一つやりたいことがあるの”」

「なんや」

「”あなたと闘ってみたいです”」


 すると、蓬莱の玉の樹の根が、ウネウネと動きだした。


「ええけど、何でや」

「”あなたが天界で手合わせしているのを見て、一度は闘ってみたいと思っていたの”」


 数十本の根っこが、万華の回りを取り囲んだ。


「ええけどな。お前さん、何処かの異世界の食人植物みたいに、いやらしい触手で変なことをしようと思ってるのとちゃうやろな。 生憎やけど、ウチはその程度ではされへんで」

「”まあ失礼な。私はこれでも天界の樹齢1万年の神木なのですよ。そこらの低級な魔性植物と一緒にしないで欲しいですね”」


「やっとるやないか。今 ウチの足に絡みつこうとしてるやないか」


「”えへっ。他の方達読者さんが期待していたと思うのですよね。あられも無い姿の万華。でも私の趣味ではないので止めておきます”」


「なんや、ちょい期待したのに。まあええ、かかってこいや」


 すると、蓬莱の玉の樹の下に人が現れた。狩衣姿に上腹巻をつけ、高烏帽子を被った女性。


小鈴こすず …… おい、樹の精霊、なんでその姿なんや?」

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