大乱の予感

第46話 探偵 真実を話す

——— 八丈島沖 ———


「おい、船倉の奴らに、シャワーを掛けとけ。暑さで死なれると厄介だ」

「分かりました。ところで船長、これから何処へ行くですか? 日本で下ろす予定だったですよね、船倉の荷物。あ〜ぁ、久しぶりの陸に上がれると思ったのにな。それから奥の船室に誰がいるですか?、近づくと傭兵が脅すんですよ」

「余計な事に首を突っ込むのは止めとけ、あの連中のことを詮索すると、お前消されるぞ」

「おお、怖え。取りあえず、船倉の奴らには水をぶっ掛けておきます」


   ◇ ◇ ◇


トントントン、ガチャ


「久保田、今帰った。…… 外は灼熱地獄だぜ。ああー、ここは生き返る」


 夏真っ盛り、地球温暖化の所為なのか、去年より暑い感じがする。俺は、自分の席に行かずに、手前のソファーに座った。部屋はボロいクーラーが入っているが、俺の席は窓際にあって、日が射して暑いのだ。


「なにか、新しい依頼は?」

「盗聴器の調査依頼が3件ほど。なんか、うちは盗聴器の専門になってきましたね」

「そうか。久保田君の営業活動の賜だな。今度のボーナスはちょっと期待しておけ」

「ほんとっすか。万華ちゃんを誘って、食事行こうかな」


 仙人の万華は物を食べないこと、久保田は、まだ知らないだっけかな。いい加減騙し通すのも気の毒だなぁ。


「久保田、ちょっと、ここに来て座れ」

と俺は久保田をディスプレイの砦から引っ張り出し、古びた応接セットに座らせた。


「なんすか、改まって。そうか、業績に貢献したら、昇格ですかね」

「昇格だ? ここには俺とお前の2人だけだろう? 平社員の上は所長しかねぇえよ」

「ああ、そうか」


 とは言ってみたものの、久保田がやっている盗聴器の調査は、今やこの事務所の収入源の一つになっている。最近は、防犯カメラの乗っ取り対策などのコンサルも始めたようだ。少し待遇もUPしても良さそうな気がする。


 さて、本題だ。久保田には、これまで万華とその仲間達については誤魔化してきた。しかし、湘賢や平行世界の人間が多くなってきてる、何時までも大阪蓬莱組の関係者と言うわけにはいかないだろう。


「おまえ、万華や湘賢、フレリーやナリーナをどう思う?」

「いい人達ですよ。万華ちゃんは綺麗だし」

「いや、そうではなくて、なんつうか …… 実はな、万華と湘賢は仙人で、フレリーは勇者、ナリーナは聖女なんだ」


「 …… 」


 久保田から返事がない。さすがに混乱するだろうな。


「ボス、今更なんですか。そんな事、前から分かってましたよ」


 なに、こいつ、分かっていたのか。確かに、万華や湘賢は、久保田がいてもお構いなしに魔族が如何とか言っていたからな。やっぱり気付いていたか。


 久保田が、前屈みになってきた。小声でしゃべるらしい。


「皆さん、国際シンジケートの諜報員で、フレリーさんとナリーナさんが、他の組織に捕まって記憶を消されそうなところを救ったのでしょ?」


 やっぱりその路線か。


「いや、さっき言ったとおり、万華と湘賢は、の仙人なんだ」

「ええ、分かってますよ、ボス。そう言うのコードネームの一種でしょう。男性諜報員を仙人や勇者、女性諜報員は、あれ、万華ちゃんは天女か聖女じゃないですか?」

「ああ、まあ、天女ではあるけどな」


 鉄壁の久保田は、攻略が難しいクエストのようだ。


「じゃあ、湘賢は子供だろ? なんでシンジケートの諜報員なんだ?」

「いや、大人を子供にする薬なんてあるじゃないですか。ほら、名家政婦コリンみたいに。『見かけは美少女、中身はオッサン。その実態は、名家政婦コリン』ってね」


 俺は、こいつの理解には、ついて行けない。


「それじゃあ、ラッキーがいるだろ? 事務所が閉まっていても、現れたり消えたりするのはどう思っているのだ?」


「スコープレス・ホログラフィック・バーチャルリアリティ。今じゃ普通に軍隊で使われていますよ」


 軍隊で? どこの国の軍隊のことを言っているのだろうか。しかし、何となく、久保田の発想の変換機構が分かってきた。基本、現実路線を維持して、不思議なことは、全て秘密兵器や秘密組織になってしまうらしい。


「なあ、久保田、お前、SF映画が好きだろう?」

「いえ、仕事の延長になるので、あまり好きではないです。むしろノンフィクションや、歴史もののほうが好きですよ」

「あああ、そっ」


 俺には、ラッキーと同じ位、久保田も謎だ。


   ◇ ◇ ◇


 久保田は、そのままにしておくことにした。俺達の常識以上のことも、あの奇妙な変換で乗り切れるだろう。


「ボス、八丈島沖で、船が事故で沈んだらしいですよ」

「へーそうかい。探偵の仕事じゃねぇな」


 俺は、新聞の経済面を眺めながら答えた。


「怪獣が、沈めたらしいですよ」

「怪獣? 」


 それは、蓬莱の依頼のうちか ……


「それから、その船って、アルタ貿易の船だったそうです。この前もアルタでしたね」


 アルタと聞いて、あの被害者を思った。腹の中の怒りが蘇る。


「ちょっと、調べる。久保田、悪いが何か情報があったら、連絡してくれ」

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