後日談 <閑話>

 トントントン、ガチャ


「万華やで」

「かぐややで」


「久保田、留守中、ご苦労だった」

「ああ、ボス、お帰りなさい。何か顔が疲れてますよ」

「ああ、有り難う」


 俺は、京都での仕事を終えて探偵事務所に帰ってきた。

 2柱の天女は、飛んで帰るとお喋りできないからと、スバルの後ろに乗せてきたのだが、それそれは、五月蠅かった。

 牛頭巨人はこんなんだ、魔王ガガットってこんな奴、フレリーはこんな奴、あっちの平行世界はこんな種属がいたと話しだけなら良いのだが、万華は一々変身してみせる。高速では隣の親父が驚いて事故を起こしそうになるわ、信号待ちでは歩行者が驚いてひっくり返るやらで、運転よりも、2人の止まらないお喋りと変身に疲れた。


「きゃー、湘賢ちゃん久しぶり」

とかぐや姫が、事務所にいた湘賢を見つけて駆け寄った。


 湘賢は、驚きながら、

「げっ、なんで、かぐやがるんや。脳筋、お前呼んだんか?」

と言った。


 かぐや姫は前かがみ込みになり、湘賢の頭をなでなでする。


 湘賢は、頭をクルクル回して、

「ちょ、ちょい、かぐや、止めんか」

と拒絶する。


「ウチは呼んでへんで。それより、オノレ、何時まで、ここにおるんや?」

「ほっとけ、まだ、ルートが直ってへんのや。ちょーっと、かぐや、止めや」

「相変わらず、可愛いな。湘賢ちゃん」


 俺から見ると、湘賢はかぐや姫には弱いようだな。あれが万華なら、今頃、商店街の決闘になっているだろう。まあ、万華が湘賢の頭を殴ることはあっても、撫でることは絶対にないと思うけどね。


 湘賢は、かぐや姫の手から逃れて、

「かぐや、宝物庫はええのか?」

と聞くと、

「ええんや。式神にやらしとるさかい。かぐやが居らんでも、誰にもばれへん。あんな退屈な仕事やってられまへん」

と手のひらを顔のまえでヒラヒラさせて言った。


 すると今度は、

「おまえ、ラッキーがここに居んの知っとんのか?」

と湘賢が言った。


 すると、

「えっ」

と言ったまま、かぐやの動作は停止する。


「どうした、かぐや姫」

と俺は 不思議に思って聞いた。


「権さん、万華、ラッキーが居るんか? ここに」

とかぐや姫が、固まった体と同じように固まった声で聞いた。


「居るで、ほれ、ラッキーや」

と万華は白い猫のラッキーを抱いて見せた。


 それを見たかぐや姫は、

「ひえー」

と悲鳴を上げて、両手を左横に出した変な格好になった。まるで上方漫才である。


 すると、ラッキーは万華の手から下りて、隣の書庫の方に向かった。かぐや姫はとぼとぼ付いていく。何故か扉が自動で開き、ラッキーが中に入る。続けてかぐや姫も入り、扉を閉めた。


「おい、万華、あれは何だ? かぐやは何であんなに落ち込んでいるだ?」

「さー、ウチは分からへんで。なあ、屁理屈」

「ああ、ワテも知りまへん」


 なんと、万華と湘賢の意見が一致している。一体ラッキーとは何なのだ。


 俺は、聞き耳を立てた。


「無駄やで。権さん。ラッキーは、ごっつい結界張ってるけん」


…… 10分 …… 20分 …… 30分 …… 40分 …… 50分 …… 1時間


 ガチャ


 ラッキーが出てきて、何時ものように歩いて外に遊びに出て行った。続けて、かぐや姫がゲッソリした顔で出てきた。


「かぐや姫、何があったのだ?」

「いや、何でもないんや」


 すると万華が近寄って、

「大丈夫け?」

と聞いた。


「万華、ここにラッキーが居るんやったら、如何して教えてくれへんかったんや」

と涙顔で訴えた。


「だから、言うたろ、宝物庫はええんかて。まあ、ラッキーが居るとは言わんかったことは堪忍や」

「うんん、ええんや」

「それで、帰るんか?」

「うん。ちゃんと有給休暇申請出して来いと」


 えっ、天界にも有給休暇制度があったのか。勿論、我が探偵事務所にもある。

 

「そうけ。今度は有給とっていや。ウチらは何時でも歓迎やで。なっ、権さん」

「ああ、何時でもいいぞ」

「おおきに」


   ◇ ◇ ◇


 かぐや姫は、取りあえず帰った。大昔の月に帰るときのように、さめざめとした感じはなく、

「またな」

と万華が送り出した


 ところで、ラッキーとは何なのだ?

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