第47話 探偵 八丈島の出会い

 夏真っ盛りの八丈島。昔は流刑地だったが、今はリゾート観光地となっている。青い空と青い海は、本土よりも色が濃い。


 俺はアルタ貿易の船が沈んだ場所に来た。と言っても、ここから10kmも沖だが。今は専ら八丈島での聞き込み。


 久保田からの連絡では、アルタ貿易の船は東南アジア方面から航行してきて、横浜港にしばらく停泊、その後何をする訳でもなく、アメリカに向かって出航した様だ。単に水と燃料の補給とも考えられるが、魔王ガガットを倒した後だけに何かを運んでいて、魔王がいなくなったから計画を変えたとも考えられる。

 

 積み荷を下ろす必要が無くなったと推測すると、嫌な予感がしてならない。


 さて、事故当時は快晴、事件の動画は既に動画サイトにUPされていて大反響を呼んでいる。その動画には、何か巨大で長いものが巻き付いて沈めているところが映っていたのだ。専門家は、メタンハイドレートによるブローアウト現象で大きな気泡が蛇のように見えたのではないかと解説しているが、動画から見ると厳しい見解だな。


 生存者は現在見つかっておらず、海上保安庁が捜索の真っ最中だ。何処かの国の潜水艦や兵器という線もあるのだろう、海上自衛隊も出動中のようだ。


 俺は、陸から様子を探ることしかできないが、幸運なことに実際に撮影した漁師から話しを聞くことができた。やはり、探偵は足で真相を追うのが鉄則だな。そこは久保田に足りないところだ。


 その漁師によると、事故の直前、巨大な影が魚群探知機に写っていたと言う事。それは、海中をもの凄い速度で動き回っていたらしい。金属製の潜水艦という感じではなく、生物のように感じたとのことだ。


 やはり、怪獣と考えられるが、ルート崩落で他の平行世界から来たのか、元々地球にいた物が目覚めたのか、はたまた、つれて来られたのか、今は分からない。


 このようなことを考えながら、俺は海が見える駐車場にレンタカーを止めて、捜査状況を整理している。大概、この辺りでラッキーが現れるはず、だがな。周りを見回しても、いねぇえな。


「ラッキーちゃん、居るんだろ …… ラッキーちゃん」

と俺は、車の下をのぞき込んで呼びかけてみた。


「クスクスクス」


 誰かが笑う声。俺は、車の下を覗くのを止めて起き上がった。


「ああ、ごめんなさい。なんか、ラッキーちゃんって呼び方が、ちょっと可笑しくて。ペットか何かお探しですか?」


「和子 …… 」


 立ち上がった時、そこには、淡い紫の花柄のワンピースを着た、ショートカットの女性が立っていた。そして、その顔は、出会った頃の和子だった。


「えっ、私の名前は、和子って言うのですか?」


 ん? なぜ、疑問形なのだろうか。揶揄われたと思わせてしまったのかも知れない。


「いや、申し訳ない。亡くした妻に似ていたもので」

「そうですか。実は、私、自分が誰なのか分からないです。今朝、気づいたら、浜辺にいたのです」

「記憶を ……  無くされたと言う事ですか?」

「分かりません、分からないのです」


 その和子に似た女性は少し悲しげな顔をして、うつむき加減に答えた。切羽詰まったような表情から察するに嘘を言っている感じはしない。


「警察には? 保護してもらえると思うのだが」

「行こうとしましたが …… 」


 和子に似たその女性が、答えているとき、

「「「いたぞ」」」

と声がした。


 駐車場に通じる道路の向こう側から、スーツ姿の男3人が、こちらに迫って来るのが見えた。このくそ暑いのにスーツを着込んでいる。よく見ると左脇が不自然な動きをしているな。


——— 一人、スーツの左側が風に煽られた ———


 ガンホルスターだ。俺は直感的にこの女性を追っていると思った。


「良くわからねぇが、とりあえず乗ってください」


 俺はレンタカーの助手席を開き女性を乗せ、前を回って運転席に流れ込んだ。


 アクセルを踏み込み、バックで急発進。


 タイヤが鳴る。


 急回転させ、スーツの男達の横すれすれを前進した。


「「「おい、待て。くそ」」」


 パン、パン、パン


 案の定、撃って来やがった。いきなり発砲するなど、日本の真っ当な組織のすることじゃねぇな。

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