第5話-1 万華の入部
——— 朝焼けに空が赤く染まる人里離れた奥多摩の森林。地上 50cm上空に緩やかな衣服を纏い蓮華座を組んで瞑想をしている女性が一人。半眼を開き、その体は金色の光りを放っている ———
万華は、目を開き、背伸びをして、
「よし、エネルギー充填200%や。さあ、学校に行こっと。今日は安藤ちゃんとラノベ研や」
ドン
と音がし、急加速で飛んで行った。
◇ ◇ ◇
「安藤さん、おはようさん」
「おはよう、千野さん」
「万華でええで。実は万華のほうがしっくりくるで」
「じゃ、私も『みこ』で。万華ちゃん、おはよう」
「ミコちゃん、おはようさん」
「ところで、何か教室の雰囲気変わってへん?」
「ほら、あそこの ”姉御さん”、それにその仲間達が …… 」
みこちゃんが顔を向ける方を見ると、なんと、姉御さんが茶髪を黒に染めて、眼鏡をかけ単語帳を一心不乱に見とるやないか。男共も坊主にして予習をしとるぞ。
ウチは、興味津々、姉御さんのところに行って、
「姉御さん、めっちゃ変わったやんけ」
と聞くと、
「姉御? 違います。蘇崎です」
と言って、単語帳を抱え込んで、背中を向けた。
「ふふふ、そや、勉学は学生の本分やさかい、頑張りや」
とエールを送って、背中を叩いてたった。
ほんで、数学、英語、古典、歴史。ここまではええ。どれを取っても天仙の修行に比べたら子供だましや。しかし、最後の家庭科(料理)ってなんや? 作った料理を友達に分け合いましょうってさ。そりゃ、みこちゃん変な顔しよるよな。だって、仙人は味見できへんのよ。四千年前の味覚なんて、とうに忘れたわ。文科省にいちゃもん言いたなった。
◇ ◇ ◇
「こちらが、昨日話した千野 万華ちゃん」
「千野 万華です。よろしゅうお願いします」
「鹿野 章子です。よろしくね」
「僕は牧野 明美。よろしく」
みこちゃんは、可愛い感じのちょっと背の低い女の子。章子ちゃんは、ええとこの姉ちゃんやな。明美は、ボーイッシュな感じの女の子や。
「今は、この三人だけなんだ。万華ちゃんが入ってくれると四人になるの」
「ええよ。ウチ、入ったるわ。で、何やるの? 」
「万華ちゃんって、面白い。普通やることを聞いてから、入るか決めるのに」
「えーっとね。大体、好きなラノベを読んで、感想を言い合うの。文化祭に向けては、その感想を書いて貼り出したりもするわ」
「ふーん。執筆はせいへんの」
「執筆だなんて、恥ずかしいわ」
「さよか、何事もやってみんと、分かれへんで。ところで、ずっと、三人だけだったん?」
「ううん。一瞬だけ四人になった時もあるの。その …… 士佐山君が三日だけいたわ。事件を起こす、ずっと前だけど」
キター。やっぱり、士佐山はラノベ研にいたことがあるんやな。もう少し鎌かけてみっか。
「あの、上坂京子のサイン会の事件のか?」
とウチはちょっと興味ありそうな雰囲気で聞いてみた。
「上坂京子のファンだって、入会してきたの」
「違うよ、あいつは小説の中の金の女神のファンだって言っていたじゃん」
「私達もラノベ好きだけど、現実と混同するまでは……ねぇ」
「どう言うこと?」
「実際にいるって言い出したの」
「そうよね。何か気味悪くなったわ」
「そうなのよ。金の女神が ……」
……
しばらく、女の子たちと噂話に興じたんやけど、まあ、情報はもう無さそうやな。
「ふーん、そうけ。ところで、みこちゃんの好きな小説は?」
「わたしはねぇ …… 」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます