―04― 制裁

 一度家に戻ると決めた俺はどうやって中に入ろうか困っていた。

 鍵を取り上げられてしまっているので、中に入ることができない。

 仕方なく玄関の近くで、俺は身を隠しては様子を伺っているのだが。

 ふと、妹のプロセルが家に入ろうとしているのが見えた。

 紙袋を持っている。

 買い物帰りだろうか。


「よぉ、プロセル」

「な、なによ、アベルお兄」


 振り返ると妹は不快なものを見たといわんばかりに目をしかめている。


「家に戻ろうたって父さんすごい怒っているから無理よ」

「別に戻るつもりはない。部屋にどうしても必要なものがあって、それを取りに行くだけだ。だから俺をこっそり中に入れてくれ」

「はぁ!? 嫌よ。なんで、私がそんなことしなきゃいけないわけ」


 やはり断られるか。

 とはいえ妹とは生まれたときからの付き合いだからな。どうすれば妹を説得できるか、俺は完全に熟知している。


「そこをなんとか頼む!」


 その方法は、頭を下げてお願いするだ。

 妹は押しに弱いからな。全力でお願いすれば、なんだかんだ言うことを聞いてくれるわけだ。


「嫌よ」


 おかしい。

 冷たく断られた。


「それじゃあ、私帰るから」


 しかも、俺に背を向けて家に入ろうとしている。


「待て待て待てッ! お願いだからっ! 一生のお願いだからっ。我が妹よ。お兄ちゃんの言うことを聞いてくれッ!」

「ちょ、腕を掴むな! 離せっ!」

「いや、離さないね! お前が言うこと聞いてくれるまで俺は離さないね!」

「〈土巨人のピューノ・ギガンテ〉」

「は?」


 眼前に突如現れた土でできた腕に殴られた。

 殴られた俺は当然のように吹っ飛ぶ。


「お前、非魔術師に魔術使うとか卑怯だろ!」

「お兄ちゃんがしつこいからよ!」


 だからって、どう見ても過剰防衛な気がするが。


「とはいえ、俺は諦めないけどな」


 殴られた箇所をさすりながら俺は立ち上がる。

 そして、どうすれば妹が俺の言うことを聞いてくれるか、ひたすら考えた。


「わかった、わかったわよ。お兄ちゃんに協力する。けど、必要なもの揃えたらすぐ部屋を出ていってね」


 突然の妹の変わりように俺は一瞬、呆けてしまう。

 それが伝わったのか、妹はこう言い訳を重ねてきた。


「アベルお兄がこうなると滅茶苦茶しつこいの私知っているからね。拒否し続けたら、余計面倒なことになるでしょ」


 とにかく、妹の強力を無事取り付けることに成功したらしい。


「うおぉおおおおおおおお! 流石、俺の妹だ! 好きだ! 愛してる!」

「ちょっ、なんで抱きついてくるの!?おかしいでしょ!」


 おっといかん。つい興奮しすぎて抱きついてしまった。

 俺の悪い癖だ。

 ぷにっ。

 手に柔らかい感触が。

 プロセルのやつ。小さくてもちゃんと柔らかいんだな。


「土巨人のピューノ・ギガンテ


 氷のように冷たい声が響いた。

 俺は一瞬でこのあとなにが起きるか、察知する。

 これは死んだかもしれない。


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