―71― 根本的に間違っている

「わかりました。なら、全部説明しちゃいましょうか」


 俺は数秒考えたのち、そう口にした。


「原初シリーズに間違いを見つけた。なので、原初シリーズよりはるかに優秀な魔術理論を俺が編み出したまでです」


 そう説明すると、全員が「なにを言っているんだ? こいつ」という反応を示す。

 そもそも原初シリーズが間違っているという発想すらなかった様子だ。


「間違っているというのは具体的にどういうことだ?」


 先生の一人がそう口にしたので、俺は正直に答えた。


「あなた方は、魔術というのがこの世界の法則に従った上で行われているという認識で間違いありませんよね」


 そう言いながら、周囲を見回す。

 すると、誰もが同意したので俺は続けてこう口にした。


「それが違いました。魔術と世界の法則には大きな乖離が存在していました。だから、その乖離を俺が小さくしたまでです。その結果、魔力量を大幅に減らすことに成功しました」


 ふむ、どうやら皆、俺がなにを言ったか理解していない様子だな。


「なら、実践といきましょうか。〈気流操作プレイション・エア〉」


 気流を操作して、部屋の中を窒素で充満させる。

 すると、全員が息苦しそうな表情を始めた。


「皆さんは、空気は風の元素という1つの元素で構成されていると勘違いされているようですが、実際には違います。空気にはいくつかの種類が存在していまして、主に窒素と酸素というのが実在します。それで、呼吸に必要なのは酸素の方ですので、この部屋の気流を操作することで、酸素を少なくしてみました。これが、皆さんが息苦しいと思う原因ってことです」

「ふ、ふざけるなっ!」

「そ、そんなわけ、あるか!」

「やはり、こいつは異端だ!」


 全員納得しきれなかった様子で、非難を口にする。だが、息苦しいせいで、しゃべるのが辛そうであった。

 なので、元にもどしてあげる。


「僕に言わせてみれば、火の元素と風の元素は存在せず、水の元素は水素と酸素という気体の化合物。土の元素については、まだ詳しくないので、なんともいえません。ただ、俺にはこういったこともできます」


 そう言いながら、僕はある魔術を見せる。


「〈雷撃ライヨ〉」


 そう言いながら、手から雷を放出した。


「これまでの魔術師が一人としてできなかった雷の魔術が、僕の手にかかれば、こうしてできるわけです。なぜ、今までの魔術師が雷を操ることができなかったのか? その理由は単純です。それは――」


 雷を見せると全員が目を丸くした表情をしていた。

 中には「信じられない」と言っているものもいる。

 そんな周囲の様子を観察しながら、俺はこう断言させてもらった。


「原初シリーズに書かれていることが根本的に間違っているからに他ならない」


 原初シリーズ。

 それは、千年前賢者パラケルススによって書かれた7冊の魔導書。

 原初シリーズには魔術のすべてが書かれているとされ、魔術師にとって魔術を研究するということは原初シリーズに書かれていることを解読することと同義だった。


 恐らく人類初めてだろう。

 原初シリーズを公の場で否定した人間は。


「それで、俺の処遇は一体誰が決めるんだ?」


 俺は言いたいこと全部いい終えたとばかりに、この場にいる全員を見渡す。

 すると、一人の男が立ち上がって、こう口にした。


「初めまして、オレグ・アレクセーフと申す。この学校の学院長をやっている者だ、といったほうが伝わりやすいかね」


 立ち上がった男はそう言って、自分の髭を指でなぞる。

 学院長か。確かに、入学式でこの男が話しているのを見た覚えがあるような……。

「どうも」と、俺は軽く頭を下げる。


「実を言うと、君が異端者であるという決定的な証拠をすでにもっているんだ」

「はぁ」


 俺は曖昧な返事をする。

 俺が異端者であるという決定的な証拠なんてどこにもないと思うんだが。


「入ってきたまえ」


 そう言って、学院長は扉のほうを見る。

 他の者たちも一斉に扉のほうを見た。

 ガチャリ、と扉を開けて入ってきたのは、俺のよく知っている生徒だった。


「シエナ……っ」


 そう、入ってきたのは教室でよく寝ているシエナ・エレシアその人だ。


「さぁ、彼であるという証言をしたまえ」


 そう学院長が言うと、シエナはゆっくり口を開いた。


「雷の異能に、鉄を操る異能、それに物を異次元にしまう異能を彼が操ることを確認しています。そしてなにより、彼はチーム戦をおこなった森にて、こう口にしていました。『偽神アントローポス』と」


 瞬間、部屋の中にどよめきが起こる。

 これは確定的だな。

 どうやら、俺の部屋に『お前が異端者であることを知っている』と書かれてる紙を置いたのは、目の前にいるシエナなんだと。

 それで、彼女はずっと俺のこと探っていた……っ!


「それでは判決を申す」


 学院長が再び立ち上がり、こう告げた。


「アベル・ギルバートを異端と認定する」


 なるほど、どうやら俺は嵌められたらしい。


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