―72― 処刑
俺が異端と認定されると、まず頑丈そうな手枷をつけられては囚人服に着替えられた上で牢屋に突っ込まれた。
「魔術で逃げられると思うなよ。この牢屋には結界が施されている。どんな魔術を使ったって無駄だ」
看守がそう説明して、牢屋に錠をかけた。
ちなみに、処刑は明日行われるらしい。随分と早く執行するんだな。
「随分とピンチじゃないか」
「そう思うなら助けてくれ」
「嫌だ。貴様が死ねば、我は自由になれるからな」
霊域から顔を出したアントローポスがそんなことを口にする。
「アントローポス、霊域からこの前作ったアレを出せ」
「嫌だ」
「逆らうなら激痛を与える」
「む……」
アントローポスは頬を膨らませながら、俺の言うことに従った。
そして、霊域からあるものを取り出した。
あるものというのは、俺と同じ姿をした
「俺の代わりにこいつが処刑される。アントローポス、こいつの中に入って動かせるか?」
「嫌だ。処刑される瞬間、痛い目にあうじゃないか」
「だったら、殺される前に、別の体に魂を移動させればいいだろ」
そんなわけで、アントローポスが俺とそっくりの
それから手枷を〈
俺の着ていた囚人服を着せ、
「ここまではいいが、どうやって結界から出るんだ」
確かに、牢屋には結界が張られており、簡単には出られないようになっている。
「別に難しいことを考える必要ははい。こういうのは、圧倒的火力で殴れば壊れるんだよ」
結界というのは物理的な障壁にすぎない。だから、強い力で殴ってしまえば壊れてしまうものだ。
そう言って、俺は呪文を唱える。
「〈
まずはアントローポスの
そして、さらに仕上げに呪文を唱える。
「〈
そう唱えると同時、結界ごと牢屋が破壊される。さらには牢屋のあった刑務所の壁も破壊するような一撃が行われた。
「それじゃあ、俺は逃げるから、お前はいい感じに逃げてから捕まってくれ」
「仕方がない、やればいいんだろ」
俺の姿をしたアントローポスが頷くのを確認して、俺は〈
◆
逃げた俺が向かった先は寮の一室だった。
といっても自分の部屋ではない。
「アベルくん!」
窓を叩くと、ミレイアがそう言って窓を開けてくれる。
「私、すごく心配したんですよ! てっきりこのまま殺されちゃんかと……」
「頼むから、静かにしてくれ。他の者に聞かれる」
「あっ、そうでしたね。ごめんなさい」
そう言って、ミレイアは自分の手で口を抑える。
「それで、悪いが匿ってくれないか」
「それは構いませんが、逃げてきたなら、ここだと簡単に見つかってしまうのでは?」
「それなら俺とそっくりな
「
その単語に驚いたようだが、ひとまず納得した様子でミレイアは俺を部屋に招いた。
「それで、これからどうするんですか?」
「どうするもなにも……異端認定された以上、隠れて過ごすしかないだろう」
「それはそうなんですか……」
「だが、1つ困ったことがある」
「と、言いますと」
「このままだと、俺はクラス対抗試合に出られない」
「えっと、そんなのどうだっていいじゃないですか」
そういえば、会長と血の契約をしていることをミレイアには話していなかったな。
そんなわけで説明する。
「そんな血の契約なんて交わしていたんですか……」
「あぁ、あれって約束を敗れば死ぬんだろ?」
「えっと、必ずしも死ぬわけではありません。契約が履行されなかった場合、破られた側が破った側を呪うことができる権利を得るというものです。この場合ですと、会長がアベルくんに対して、ですかね。だから、呪いによっては死ぬこともありますし、半殺しで済む場合もあります。実際に、会長がアベルくんを殺すとは思えないですけど」
「そもそも、明日、俺の
死んだ相手を、さらに殺そうとは思わないだろう。
だから、心配する必要もないといえば、そうなんだが。
「これって、私のせいですよね……」
ふと、ミレイアがバツの悪そうな顔をする。
「なんで、そう思ったんだ?」
「だって、アベルくんが会長と契約をかわしたのは、私を助けるためですよね?」
ん? あぁ、確かにそうか。
俺としては偽神アントローポスを手に入れたかったから、契約をかわしたという認識だったが、ミレイアからすれば、自分を助けるために、契約をかわしたと思うことになるだろう。
だから、責任を感じているわけか。
「えっと、ミレイアはなにも気にする必要はないと思うが」
「で、ですが……」
「ミレイアにはすでにこうして助けてもらっているしな。だから、俺はお前に感謝の気持ちしかないんだが。だから、気にしないでくれると俺としては助かるんだがな」
そういって、俺はミレイアの頭を撫でる。
「そうやって、たまに優しくしてくるのズルいですよ」
「俺はいつも優しいけどな」
「ふふっ、うそつき」
ミレイアはそういって微かに微笑む。
こうして笑ってくれたなら、しゃべったかいがあったというものだ。
「なんだか、私たちだけ世界から切り離されてしまった感じがしますね」
ふと、ミレイアが夜空を見ながらそう口にする。
「どういう意味だ?」
ミレイアの言葉が理解できず、俺はそう尋ねていた。
すると、ミレイアは「こういうのは説明するのが恥ずかしいんですよ」と言いながらも答えてくれた。
「私とアベルくんだけが秘密を共有しているからですかね」
確かに、他の者たちは俺が未だに牢屋に捕まっていると勘違いしている。
それだけじゃない、俺が偽神アントローポスを使役していることも俺の魔術が科学をベースにした魔術であることも、ミレイアだけが知っていてくれている。
確かに、俺とミレイアだけが世界から切り離されたという表現は正しいのかもしれない。
いや、待てよ……。
「アントローポスもこのことを知っているぞ」
だから、俺とミレイアだけが秘密を共有しているというのは正しくない。正確に言うならば、俺とミレイア、アントローポスの三人の秘密だ。
「あまり雰囲気をぶち壊すようなことを言わないでください」
なぜか、ミレイアは口をすぼめて不満そうな顔をしていた。
ふむ、俺は事実を言っただけなんだけどな。なにが不満だったのやら。
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