―09― 科学と改良
そんな具合に俺は、書物に書かれていることが事実かどうかひとつずつ確認していく。
実験をしていく上で書物に誤りは見つからない。
そして、書物には四大元素を否定し、代わりに原子論なるものが主張されていた。
原子論とはあらゆる物質は極小の原子が集まって構成されているという理論だ。
この原子論に関しては納得できるようなできないような曖昧な感じだった。
それは実験にて証明できていないからだろう。
しかし四大元素より真理に近いのは間違いなかった。
「結局、魔術ってのはなんなのだ?」
俺は今まで魔術は現実の物理法則を応用することで行使されていると考えていた。
というか俺だけでなく、魔術師全員がそう思っている。
しかし、実際には現実の物理現象とあまりにも乖離している。
それともう一つ疑問なのが、
「なんで科学が廃れたんだ?」
この書物を書いた人、名はボイルというらしいが、きっと頭のいい科学者だったに違いない。
けど、この人がこれら全てを発見したのではない。
恐らくたくさんの科学者がいて、お互いに研究し発表しあっていたのが容易に想像できる。
この本はたくさんの科学者たちのいわば結晶だ。
しかし、そういった事実は現代では全て失われている。
なぜだ?
思い当たる原因としては2つ。
科学は魔術とあまりにも矛盾しているために、科学が否定され淘汰されてしまった。
現代において原書シリーズに書かれている理論を疑う人はいない。
皆が魔導書に書かれていることを事実として認識している。
しかし、千年前。
賢者パラケルススが魔術を体系化したときはどうだったのだろうか?
もしかしたら、魔術師と科学者で激しい対立があったのかもしれない。
その結果、科学は破れ廃れていった。
そして、もう一つの思い当たる原因は、古代語を読める人が現代にいないってことだ。
魔術の発展と共に古代語は廃れていった。
元々、現代語は魔術師だけが扱う言語であった。
そもそもの始まりは、賢者パラケルススが魔法陣を構築するさい、専用の言語が必要となり作ったことに起因する。
だから、魔術師だけが現代語を使い、一般民衆は古代語を使っていたのだが、それがいつしか一般民衆までも現代語を使うようになっていき、古代語は廃れてしまった。
だから古代語で書かれた科学までも人々は忘れてしまったのかもしれない。
と、二つの推測を立ててみたが、いまいちピンと来ない。
二つの推測が仮に事実だったとしても、現代になんらかの形で科学は残るんじゃないだろうか。
科学が千年の間で、完膚なきまでに忘れ去られる。
「誰かが、科学の存在を抹消したとか……」
3つ目の推測を立ててみる。
科学が邪魔だと思った何者かによって、存在ごと抹消された。
もしそんなことが可能な人物がいるとすれば、その人は余程の権力者だな。
と、様々な推測を立ててみたが、結論が出ないことを考えても仕方がなかった。
それより、俺は実践したいことがあった。
もしかしたら、魔術を科学的な理論を用いて再構築できるんじゃないだろうか。
早速、俺は試してみることにする。
魔術に必要なのは、魔術構築、魔力、魔法陣、詠唱、イメージの五つだ。
まず、頭の中で結果をイメージする。
イメージが具体的であればあるほど魔術は成功しやすくなる。
そして、イメージを実現させるのに必要な手順を構築していく。これが魔術構築と呼ばれる部分だ。
次は魔力操作。
体内にある魔力は外に放出すると光となる。
その光を用いて魔法陣を形成し、魔術のトリガーとなる詠唱を行う。
俺の場合、肝心の魔力がないため魔術を扱うことはできないが、魔術構築や魔法陣なら作ることができる。
てか、俺はそのへんの魔術師よりも魔導書を読み込んでいるからな。
魔法陣のアレンジに関しては右に出るものがいないと自称するぐらいには詳しいつもりだ。
ペンと紙を用いて魔法陣を描いていく。
魔術師でも新しい魔法陣を作る場合、ペンと紙を用いるのが普通だ。いきなり魔力を発光させて、魔法陣を描くのは難しいためだ。
「既存の魔法陣の常識が全く通じないな。これは一から作り直していく必要があるな」
早々に俺はそのことに気がつく。
例えば、今までの魔法陣は四大元素をベースに構築されている。
これを原子論に置き換えていけばいいのかと最初のうちは考えていたが、そう単純な話ではなかった。
他には、魔法陣には必ず世界を創造した神に関する記述から始まる。
魔術というのは神の創った
だが、今の俺は原初シリーズに書かれていることとは全く異なる理論で魔術を構築しようとしている。
だから俺は原初シリーズに書かれている神の存在にも疑問を持つ必要が生じた。
「まぁ、色んなパターンを想定して作ってみるか」
例えば、原初シリーズに記されている通りの神が四大元素ではなく原子論を元に世界を創ったと仮定して構築を練るとか。
そもそも魔法陣から神に関する記述を一切消去してみるとか。
「一応、これらの魔法陣のうちどれかは成功すると思っていいよな」
魔法陣を作り始めて、5日後。
机上には複数のパターンで書かれて魔法陣が置かれていた。
できた魔法陣は主に幾何学的な図形と現代文字で構成されている。
今回作った魔法陣は物を燃やすという単純なもの。
物と酸素が結合し燃焼を起こすという手順を基本に魔術を構築していった。
「魔法陣を作ったからには実践して検証してもらいたいわけだが……」
俺に魔力があれば自分で行うが、当然それは不可能だ。
「やっぱ妹を頼るしかないか」
と、そんなことを俺は思うのだった。
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