―51― 代表者決め

「クラス対抗試合について、どうやって代表者を決めるか、今から話し合いたいと思います」


 放課後。

 教壇に立った生徒が皆の視線を集めていた。

 立っていた生徒はユレン・デルガルド。

 チーム戦の際に、合同チームの指揮をとっていたし、こんな風に人を仕切るのが好きなのかもしれない。


「アベルくん、帰らないんですか?」


 ふと、見ると、ミレイアが話しかけてきた。


「なんで俺が帰ると思った?」

「だって、アベルくんこういうの興味なさそうですから」


 確かに、普段の俺なら授業が終わり次第、早く帰って魔術の研究に没頭したいところだが、今回限りはそうはいかない。


「なにか意見のある人はいますか?」


 ユレンはそう言って、生徒たちを見回す。

 だが、手をあげる者は見当たらない。皆、様子を伺っているようだ。

 そんな中、唯一手をあげたものがいた。

 まぁ、俺のことなんだけど。


「アベルくん、意見をどうぞ」


 名指しされたので、俺はこう言い放った。


「俺が代表者をやる」

「は?」


 とぼけた声を出したのはユレンだった。


「あの……、今は立候補をする時間ではなく、どうやって決めるかの話し合いをしている時間なんだけど」

「だとしても、俺の主張は変わらない。俺が代表者になる。もう1つの枠は自由に決めたらいい。まぁ、文句があるなら聞くだけ聞いてやる」

「文句しかないよ。代表者というのは公平に決めるべきだろう。はぁ……まぁ、いいか。とりあえず、代表者になりたい人は手をあげてくれ」


 そうユレンが言うと、数十人ほどの生徒が手をあげる。

 意外と多いな。

 これなら、代表者になるのが大変かもしれない。


「相変わらず、空気読まないですね」


 ミレイアは呆れた様子でそう言っていた。そのミレイアはというと、手は上げていない。

 どうやら代表になる意思はないらしい。


「多少強引でも、こういうのは主張しておいたほうがいいんだよ。もしかしたら、優遇してもらえるかもしれないだろ」


 とはいえ、想像以上に代表者になりたい生徒が多いので、優遇されるってことはなさそうだ。


「それにしてもアベルくんが代表者を希望するなんて意外ですね」

「優勝賞品がほしいんだよ」

「そうなんですか……」


 それよりも、会長との契約があるからだ、というのが理由の比重が大きいのだが、わざわざそれを口にする必要もないだろうと思い、黙っておくことにした。


「それでは代表者をどうやって決めましょうか? パッと思いつく意見は、抽選で選ぶか実力で決めるかのどちらかですが」


 と、教壇に立っているユレンが口にしていた。

 抽選で選ぶってのはやめてほしいな。この人数の中、ランダムで2名選ぶとしたら、よほど運がよくないと選ばれない。

 仕方がない。多少、強引に意見を通したほうがいいかもしれないな。

 そう思った俺は、立ち上がって主張をさせてもらうことにする。


「上のクラスと戦うんだから、勝てる可能性が高い人が代表者になるべきだ。だから、実力で選ぶべきだと思うがな」

「確かに、それは一理あると思うよ。だけど、実力で選ぶのは簡単ではない。このクラスで誰が一番強いのか、わかっていないからね」

「それなら問題ない。このクラスで一番強いのは俺だからな。俺が代表者になれば、問題は解決だ」

「なんで、そんなに自信があるんだよ……っ」


 明らか苛立った様子でユレンがそう口にする。

 すると、それに続くように、他の生徒たちからも文句が飛び交った。


「てめぇが、一番強いわけがねぇだろ!!」

「魔力がゼロのくせして、ふざけんじゃねぇ!」

「てめぇごときが、俺なら簡単に倒せるわ!」


 ふむ、狙い通り、皆が怒り狂ってくれた。

 あとは、こう言えば解決だ。


「よし、文句のあるやつは俺に直接挑んでこい。俺が直接叩きのめしてやる」

「うぉおおおおお! やってやる!」

「舐めるのも大概にしろや! この野郎!」


 すると、いきり立った生徒たちが俺に向かってくる。

 今この場で、乱闘が始まりそうな雰囲気に包まれる。

 よしっ、あとはこいつら全員叩きのめせば、俺が代表者になることに誰も文句が言えなくなるはず。


 だが、この場に水を差す者がいた。


「待てッッッ!!!!」


 キーン、と鼓膜が響いた。明らか、普通の声量ではない。なんらかの魔術を使って、声量を大きくしたのは間違いなかった。

 その言葉の主は、教壇に立っているユレンだった。


「ここは教室だ。戦う場所ではない。後日、望み通り戦う場所を用意してやる。そこでなら、好きに暴れるがいい。そして、勝ち残った者が代表者だ。異論はないな」


 ユレンが鋭い眼光で、周りに言い聞かせる。

 そして、誰もが気圧されてしまったのか、声をあげることさえできないでいた。


「よしっ、異論はないようだし、決まりでいいな。あと、アベル。あまり人を挑発する言動は控えてもらいたい」

「……すまない」


 どうやら怒られたようなので、一応謝っておく。間違ったことをしたとは思ってはいないがな。


「わかればいいんだ」


 その言葉を最後に、代表者の決め方に関する議題は終わった。


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