―62― 弾丸
翌日の放課後。
俺は早速、シエナに接触を図ろうとした。
「いないな」
教室を見回すがどこにもシエナの姿が見当たらない。
もう帰ってしまったのだろうか?
困ったな。
これでは今日の予定が総崩れだ。
と、そのとき一人の生徒が視界に入った。
そういえば、この生徒もチーム戦のときあの場にいた生徒だ。
こいつが俺の部屋に置き手紙を置いた犯人とは思えないが、一応声をかけておくに越したことはないだろう。
「おい」
「なんだよ?」
声をかけただけなのに、その生徒は俺に対し睨みをきかせてくる。
そんなに俺のことが嫌いかね。
声をかけたのはビクトル・フォルネーゼ。チーム戦のとき、同じチームとして戦った仲だ。
ビクトル自身はすぐに気絶したので、あまり役に立たなかったが。
ビクトルもあの場にいた一人ではあるため、置き手紙を置いた犯人の可能性がゼロではないと思い声をかけてみた次第なわけだが。
「少しつきあってくれないか?」
「なぜ、俺がお前につきあわなくてはいけないんだ」
確かに、仲がいい間柄でもないのに、つきあってもらうのは少しおかしな気がするな。
「ふむ、新しい魔術を開発しようと思っているんだが、第三者の意見が欲しいと思ってな。どうだ、興味はないか?」
これから新しい魔術を開発するのは本当の話だ。
だから、それを提示すれば興味を示してくれるだろうか、と思ってみたわけだが。
「ちっ、それでなにをすればいいんだよ」
意外にもビクトルは乗り気のようだった。
「なんだよ?」
俺が驚いていることに気がついたのか、ビクトルがそう口にする。
「てっきり、断られると思ったからな」
「お前の言う新しい魔術に興味があるだけだ。悪いか?」
いや、別に悪くはないが。
ホントなにを考えているのかよくわからんやつだな。
◆
それから俺はビクトルと共にある目的地に向かっていた。
向かった先は鍛冶屋だ。
「昨日、注文したのはできているか」
「おう、今持ってくるから少し待っていろ」
鍛冶屋の店主に話しかけると店主は奥へと引っ込んだ。
「ほいよ、これでいいか」
「あぁ、問題ないな」
見た限り欠陥らしいところは見当たらない。
「しかし、変わった注文だから作るのに苦労したよ」
「それでも一日で仕上げるなんて腕がいいんだな」
「まぁな、それだけが俺の自慢だからな」
鍛冶屋は笑いながら、そう答えた。
「おい、それはなんだ?」
という質問をしたのは一連のやり取りを見ていたビクトルだった。
「魔銃というんだよ」
「魔銃? 聞いたことがねぇな」
「そりゃ、俺が作った言葉だからな。当然だろ」
ビクトルが疑問を口にしたのも無理はない。俺が新しく作った魔導具だからな。
仕組みは一般的な銃よりも単純で、銃口と持ち手にもなっている弾倉しかない。
一般的な拳銃ならあるはずの、引き金や撃鉄なんかは取り払われている。
その代わり、引き金の箇所に魔石が取り付けられている。
魔術的な機構を使って弾丸を飛ばす仕組みになっているのだ。
「それと、鉄くずも欲しいんだったよな。できる限り集めたが足りそうか?」
「いえ、これだけもらえたら、十分ですよ」
大きな麻袋の中を覗くと、そこには大量の鉄くずがはいっていた。
思ったよりもたくさんもらえたな。
鍛冶屋に頼んでよかった。
「鉄くずをこれだけ集めてどうするんだよ?」
「魔術の実験に使うんですよ」
◆
鍛冶屋を出た俺はビクトルと遠くまで見渡される原っぱに来ていた。
「それでなにを始めるんだ?」
鉄くずが入った麻袋を地面に置くと、ピクトルがそう訪ねる。
俺がなにをするのか、興味はあるらしい。
「まぁ、見ていろ」と口にしてから、俺は呪文を唱える。
「〈
すると、大量の鉄くずは宙の一点に集まっていく。
「おい、なんだこの魔術は!?」
ビクトルのやつ、普通に驚いているな。俺が異端者だと知っていたら、この反応はわざとらしすぎるか。
「驚くのはまだ早いぞ」と言いながら、俺はさらに魔術を重ねていく。
「〈
鉄くずの熱を操作することで溶解させる。溶解させた状態であれば、好きなように鉄を形成させることができる。
まずは、鉄くずだったのを凝縮させて、一つの鉄の塊にしていく。そこから、さらに俺の好みの形へと変形させていく。
そして、形が決まったら、再び〈
「なにを作ったんだ?」
「魔銃に使う弾丸だよ」
そう言って、俺はたった今作った弾丸をビクトルに見せた。
本来の弾丸には火薬が込められているが、今作ってみせた弾丸はただの鉄の塊だ。
とはいえ、問題はない。
俺は弾丸を魔銃に装填し、銃口を遠くの木に当たるよう狙いを定める。
その上で、再び呪文を唱える。
「〈
本来、銃というのは火薬を使って気体を膨張させることで、弾丸を射出させる武器だ。
であれば、火薬が担っていた役割を魔術に置き換えれば、こうように弾丸を飛ばすことができる。
そんなわけで、銃口からは勢いよく弾丸が飛び出し、遠くの木にぶち当たる。
「成功だな」
魔銃を使えば、わずかな魔力量を消費するのみで殺傷できるな。
銃がこうして廃れてしまったのが理解できない程度には、使いやすい武器だな。
「ビクトルも使ってみるか?」
「いいのか?」
興味深かげにビクトルが見ていたので、銃を手渡す。
「どうやって使うんだよ」
「弾丸の後ろ辺りにある空気の温度を上げるんだよ」
「温度あげるってことは火の元素を操ればいいのか?」
「まぁ、そういうことだな」
科学的には、熱は分子の運動だが、原初シリーズを信じている彼らにとって、熱というのは火の元素の一つの形態って認識だ。
だから、火の塊は出せても熱だけを生み出すのは、彼らにとって苦難なことに違いない。
だから、ビクトルは弾丸を射出するのに手こずっていた。
「よしっ、どうだ。俺でもできだぞ」
魔銃からうまく銃弾を射出させることに成功できたビクトルが満足そうな表情をしていた。
とはいえ、無駄な魔術構築のせいで、威力は俺のに比べれば弱まっているし、魔力の消費も無駄に多い。
まぁ、そのことを指摘するつもりはないが。
「気に入ったなら、やるぞ」
「いらん。普通に魔術を使ったほうが効率が良さそうだ」
ビクトルは俺に魔銃を投げ渡す。
まぁ、ビクトルの言っていることはそう間違ってもいないか。
わざわざこんな魔銃を使わずとも、魔術で人を殺傷するのは可能だ。
それに、この魔銃は弾丸がないと使うことができないという弱点もあるしな。
まぁ、俺にとって、この魔銃は、今開発に取り掛かっている魔術の前段階のようなものなんだけどな。
ともかく半日ほど、ビクトルと過ごしてみたが、置き手紙を部屋に残した犯人ではなさそうだと感じた。
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