―63― 行き先

 翌日、再び、置き手紙の犯人を探そうと、シエナ・エレシナに接触をはかろうとした。

 今度は見失わないように気をつける。

 彼女は放課後になると、即座に教室をでる。それを見失わないように後をつけた。

 そして、学院の外に出たぐらいだろうか、彼女は立ち止まって後ろを振り向いた。

 どうやら俺が後をつけていることに気がついたらしい。


「なに?」


 抑揚のない声で、彼女はそう口にする。

 さて、なんて答えれば自然な流れで彼女を探ることが可能だろうか。


「いつも、放課後になるとすぐ帰るだろ。なにをしているのか、気になってな」


 とはいえ、特にいい考えが思いつかなかったので、素直に聞いてみることにした。


「ついてくる?」

「いいのか?」


 すると、シエナはコクリと頷いた。

 そんなわけで、許可もおりたことだし、シエナにくっついていくことにする。


「ここ」


 やってきたところはおしゃれな外観をした建物だった。恐らくカフェだろうか?


「なんのお店なんだ?」


 そう問いかけるもシエナは質問に答えることなく、中へとはいっていった。

 仕方がないので、俺もそれに続いていく。


「なんだここは?」


 入った瞬間、俺はそう口にする。

 猫カフェとでも呼ぶべき場所なんだろう、ここは。その証拠に、店内にはたくさんの猫で溢れている。


「猫、嫌い?」

「いや、嫌いではないが」


 かといって、特別好きでもない。


「猫好きなのか?」


 そう尋ねると、コクリと彼女は首を縦にふった。

 それから、シエナは店員となにやら話し、なにかを受け取る。恐らく、猫用の餌でも受け取ったのだろう。

 それから、シエナと俺は椅子に座る。

 すると、シエナは先程もらった餌を手にして、猫の相手をし始めた。

 猫の相手をするシエナの表情はいつもどおり無表情だ。本当に猫が好きなら、もっとそれらしい表情をすればいいのにな。

 にしても、今日はこんなことをするために、シエナと行動を共にしているわけではない。

 俺を異端者だと疑っている置き手紙の犯人を見つけなくてはならない。その犯人がシエナでないかと、疑っているから、こうして行動を共にしている。


「いつもここに来るのか?」

「週に2回ぐらい」

「そっか、常連なんだな」


 ……やばい、会話が全く続かないな。俺も正直、会話が苦手な自覚もあるが、シエナも会話を続けようという気配が一切ない。だから、お互いに会話のテンポが非常に悪い。


「ねぇ、なんで今日、私の後をついてきたの?」


 と、思った矢先、シエナのほうから話をふってきた。

 ふむ、困ったな。バカ正直に、異端者と書かれた置き手紙が部屋にあり、その犯人を探しているなんて言うわけにもいかない。


「お前に興味があったから」


 そう言うと、彼女は首を傾げてこう口にした。


「私のこと好きなの?」

「なぜ、そう思った」

「違うの?」


 まぁ、確かに今の俺の口ぶりだとそう思われても仕方がないのかもしれないな。


「シエナは授業中、いつも寝ているだろ? なにか理由でもあるのか?」


 この話をこれ以上、追求されても困るし、話題を逸らすことにした。


「授業とか、あまり興味ない」

「じゅあ、なんのために学院に通っているんだ?」

「……将来のため」


 まぁ、確かに将来、それなりにいいところで働こうとしたら、学院を卒業していたほうがいいに違いない。

 彼女の答えは、納得できないことはなかった。


 それから、シエナがひたすら猫とたわむれるのを眺めていた。

 シエナが「にゃーにゃー」と猫の鳴き真似をしながら、猫じゃらしを使って、猫と遊んでいた。

 それを俺はただ眺めていた。

 猫と美少女の組み合わせか。案外、悪くない組み合わせなのかもな。





「それで、他に用事はあるのか?」


 猫カフェを出た後、シエナにそう尋ねた。

 すると、彼女はフルフルと首を横にふる。つまり、もう用事はないらしい。


「なら、寮に帰るか」


 プラム魔術学院は全寮制のため、シエナも同じ寮に暮らしているはずだ。


「あなたは行きたいところないの?」


 ふと、シエナがそう言う。

 確かに、シエナの行きたいところに行ったわけだし、今度は俺が自分の行きたい場所に行くのが自然な流れか。


「そうだな」


 と、考えて、1つ用事を思い出す。


「それじゃあ、せっかくだしつきあってもらうか」


 そういうわけで、俺はシエナを連れて、行きたい場所に向かった。



「用事ってここ?」


 シエナと俺が来た場所、男女が二人で行くには些か不適当なところだった。


「俺がこれからする魔術の実験にここが最適なんだよ」


 視線の先にあったのは、国が管理するごみ捨て場。

 そこには、地平線の先まで山のようにゴミが置かれている。

 それと、悪臭がひどいな。ここに何時間もいると、鼻が曲がってしまいそうだ。


「それで、ここでなにをするの?」

「まぁ、見ていろ」


 そう口にして、俺はある魔術を使った。


「〈磁力操作マグネティカ〉」


 瞬間、ゴミ捨て場にあった鉄製品が宙に浮かびあっては、俺の元へと大量に引き寄せられていく。

 集まってきた鉄製品には様々なものがあった。

 鉄パイプや鉄板、剣や錨まで、鉄製品の種類に際限ない。

 それら大量の鉄製品を磁石を用いて、手元へと手繰り寄せた。


 さて、お前はこれを見て、どう思うんだ?

 俺はずっと誰かが置き手紙を置いた理由を考えていた。例え、俺が異端者だということを知ったとしても、俺の部屋に置き手紙を置くに理由にはならない。

 なのに、なぜ、犯人は置き手紙を置いたのだ?

 それは、俺の反応をうかがうためにそうしたに違いない。

 恐らく、犯人は俺が異端者だと決定的な確信をまだ待っておらず、まだ推測の段階なのだ。

 だから、犯人は推測を確信へと変えるために、俺の部屋に置き手紙を置くことで、俺の反応を観察しようということなんだろう。


 だから、俺は魔術を使いながら、シエナのことを観察した。


「すごいっ」


 ふと、シエナは目を丸くして、そう口にした。

 普通の反応すぎて、拍子抜けだな。


「どうやって、こんな魔術を?」

「それは教えられないな。俺は自分の魔術を他人に教えない主義なんだよ」

「そう」


 彼女はそう頷くと、これ以上なにも聞いていなかった。

 これだけでは、シエナが置き手紙の犯人か判断つかないな。

 なら、もう1つ、俺の手の内を晒そうか。


「〈霊域開放〉」


 そう口にして、霊域へと続きゲートを開く。


「おぉ、我になにか用――ふごっ」


 一瞬、偽神アントローポスの声が聞こえたが、それを遮るように、磁力で集めた鉄製品を霊域の中へと突っ込んでいく。

 流石に、アントローポスの存在までバラすのは危険すぎる。

 さて、シエナの反応はというと――


「不思議な魔術」


 と、感心していた。

 もし、俺が異端者だと確信したとするならば、いかにも呑気すぎる反応な気がする。

 結局、シエナが置き手紙の犯人か否か、これでは、よくわからないな。


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