―19― 感謝

 寮の生活を始めて五日目。

 俺の元に手紙が届いていた。


「なんだろう?」


 手紙をもらう心当たりがなかったのでいぶかしむ。

 裏返すと、差出人は妹のプロセル。

 なるほど、そういうことか。

 妹なら俺宛に手紙を送ってもおかしくないな、と納得しつつ封を開ける。


 内容は、


『合格した件を父に伝えたところ、至急家に戻ってこいとのことです』


 と書かれていた。


 父さんが俺に会いたがっているのか。

 もしかしたらプラム魔術学院に合格したことで、父さんは俺のことを見直してくれたのかもしれない。

 今頃、俺を勘当したことを後悔していたりして。


「ん?」


 よく見ると、手紙には続きがあった。


『追伸。父さん、めちゃくちゃ怒っているので気をつけてね』


 どうやら、俺の予想は見当違いだったようだ。

 しかし、なぜ父さんは怒っているんだ?

 全く心当たりがない。

 父さんが怒っていることを事前に知らせてくれたのは妹なりの優しさなんだろうが、できれば怒っている原因まで書いてほしかったな。

 家に帰りたくない。

 怒っているのを知って、わざわざ帰るやつがいるだろうか?

 とはいえ、俺なにも悪いことしていないよな。

 ならば、ここは堂々と家に帰るべきだ。

 恐らく父さんはなにか誤解をしているに違いない。

 ちゃんと説明すれば理解してくれるだろう。

 あと、本屋の店主にお礼も言いたいしな。

 

「あれ? アベルさん。どちらに行かれるんですか?」


 家に帰るべく、寮の中を歩いていると偶然、ミレイアとすれ違う。


「あぁ、これから家に帰ろうと思ってな」

「お家に帰られるんですね」


 心なしかミレイアはどこか寂しそうに見えた。

 そういえば、なんでミレイアは入学の日まで日にちがあるというのに入寮したのだろうか?

 もしかしたら俺と似たような境遇なのかもしれない。

 まぁ、あまり興味ないので直接聞こうとは思わないが。


「それじゃ、あまり足止めしても悪いので」

「そうだな。また会おう」


 俺はそう言って寮を出た。


 

 それから魔導列車を利用して、実家のある街まで戻った。

 ちなみにこれで店主からもらったお金はなくなった。

 店主はきっかり帰りの交通費まで俺に渡していたのだ。

 まず、家に寄る前に本屋の店主に会いに行くか。


「よぅ、店主」

「おー、アベルじゃないか! 中々、来ないから心配してたぞ」

「無事、合格したよ」


 と、俺は報告する。


「は!?嘘だろ!?」


 店主は飛び跳ねるんじゃないかという勢いで驚いた。

 あまりの大きな声に、周りにいたお客さんがギョッした感じでこっちを振り向く。

 流石に驚きすぎだ。


「ほ、本当にプラム魔術学院に合格したのか?」

「うん、おかげでここ数日は寮で生活していたんだ。ご飯もでるし」

「ほ、本当かよ……」


 うん、この感じあまり信じてもらえてないな。

 まぁ、ここ最近魔術を使えるようになった男がいきなり難関校のプラム魔術学院に入学できたなんて信じられるわけないよな。


「ともかく店主にお礼がいいたくて寄っただけだから」


 これ以上いても仕方がないので、俺は話を切り上げようとする。


「それじゃ、また用事があったら来るから」

「おい、アベル! 困ったらいつでも来ていいんだからなー!」


 背中ごしに店主の声が聞こえる。

 店主のおかげで入学できたもんだからな。感謝しかない。


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