―20― 実家

「ただいま帰りました」


 久しぶりの実家に戻った俺は玄関の扉を開ける。

 鍵はかかっていなかった。


「アベル、よく来たな」


 なぜか父さんが玄関の前で仁王立ちで待っていた。

 表情をひと目見ればわかる。

 父さん、めちゃくちゃ怒っているな。


「アベル、こっちに来い」


 そう言って父さんはズンズンと足音を立てながらどこかへ行こうとしていた。


「はぁ」


 俺はため息をつきながらついていく。

 これからなにが待っているんだろうか。


 

 俺は父さんと対面して座っていた。

 父さんはいつになく険しい表情を浮かべている。


「なんで俺が怒っているかわかるか?」


 いえ、わかりません。

 俺のこと勘当したのはそっちじゃん。なら、俺がなにしようが勝手じゃない?

 と、俺は思うのだが、それを素直に言うほど俺も馬鹿ではない。


「しゅ、就職していないことですかね……?」


 なんとか捻り出してみる。

 父さんは俺に就職させるために、家から追い出した。

 けど、俺は父さんの意向を無視して受験を受けた。

 とはいえ入学すれば寮に入れるし食事の提供もある。自立していることに違いはないのだから、なにも問題ないと思うのだけど。


「プロセルからおおよその話は聞いている。お前がプラム魔術学院に合格したと。最初は話を疑ったが、学院に照会したところ確かにお前は合格していた」


 と、父さんはここで一度言葉をとめて、こう主張した。


「お前、不正しただろ!」


 ドンッ、と机で拳を叩いていた。

 察するにだ。

 俺は不正をして合格を手にしたと疑われているらしい。

 マジか……。


「いや、誤解なんだが」

「そんなわけあるか! 魔力ゼロのお前がプラム魔術学院に入学できるわけがないだろ!」

「えっと、実は魔術使えるようになって」

「ふざけんのもいい加減しろ! 白状しろ! 一体どんな不正を使って合格した!」


 確かに魔力ゼロの俺が入学できるわけないと思う気持ちは理解できるが、だからって不正したと決めつけなくてもいいではないか。

 流石に傷つくんだが。


「だから、俺は魔術が使えるようになったんだよ」


 多少のイラつきを込めながらそう主張する。


「まだ嘘をつくか。だったら今ここで〈火のファイア・ボール〉を見せてみろ」


 よりよって〈火のファイア・ボール〉か。

〈火のファイア・ボール〉は俺には扱えない。

 俺の魔術は現実の物理現象をベースに魔術を行使する。

〈火のファイア・ボール〉は四大元素という架空の物理現象をベースにしないと存在が許されない代物だ。


「悪いけど〈火のファイア・ボール〉はできない」

「〈火のファイア・ボール〉は基礎中の基礎魔術だぞ! それすらできないで難関校のプラム魔術学院に合格できるわけがないだろ!」


 はぁ、こうなったら見せるのが手っ取り早いか。


「〈重力操作グラビティ〉」


 瞬間、父さんの体が宙に浮く。


「いでぇ!」


 父さんは悲鳴をあげていた。

 見ると、天井に頭をぶつけていた。

 あ、やりすぎてしまったな。

 もしかしたら頭にたんこぶができてしまったかも。


「これでわかっただろ。不正していないのが」


 重力を操る魔術は四大元素をベースにしてもできないことはない。

 といっても上級魔術ではあるので、それをやってのければ父さんは認めるしかないだろ。


「アベルがこれをしただと……? いや、そんなことあるはずがないだろ……」


 まだ父さんは疑っていた。

 仕方がない。

 俺は重力をさらに操り、上へ下へと父さんを上下に揺さぶる。

 父さんが根をあげるまでやり続けるか。


「これでもまだ疑うのか?」

「わ、わかったから、やめてくれ! アベルがやったんだと認めるから!」


 思ったよりあっさりと父さんは認めてくれた。

 なので父さんを床に降ろそうとして――。


 フワリ、となにかが落ちてきた。

 父さんのカツラだった。


「あ、ごめん……」


 反射的に謝ってしまう。


「構わん」


 そう父さんは言うと、カツラを拾って自分の頭に乗せた。

 父さんカツラだったんだ。

 初めて知った事実に俺は驚愕していた。

 あれ? 父さんがハゲってことは俺も将来ハゲる可能性高いんじゃ……。

 やばっ、体の震えが止まらなくなってきたんだけど。


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