―21― 色々と説明

「それで魔力ゼロのお前がどうやって魔術を行使したか、教えてもらえないか」


 改めて父さんが会話を切り出す。

 どうやら父さんの中で、カツラがとれたことはなかったことになっているようだ。


「その、なにから説明すべきか……」


 素直に話せば、俺が異端者だと疑われる可能性が高い。だから、なんと言うべきか……。


「しかし、アベルが魔術を使えるようになったか……」


 父さんが感慨深げにそう呟く。

 あれ? 父さん泣いてない?


「えっと……」


 困惑していると父さんは「すまぬ」と言って手で涙を拭う。


「お前にはすまないことをしたとずっと思っていた」

「そうなのか……」

「お前は魔術が大好きだったよな。幼い頃から難しい魔導書でさえ何冊も読むお前を見て、こいつは将来すごい魔術師になるぞ、と何度思ったことか。なのに現実は非情だ。お前は魔術師の家系でありながら、魔力がゼロという残酷な運命に立たされた。どうしてお前を魔力がある少年として生んでやれなかったのか……何度も後悔した」


 初めて聞く父さんの吐露に俺は戸惑いを隠せないでいた。

 こんなことを父さんは考えていたのか。

 俺だって、なんで自分に魔力がないのか、何度悔やんだことか。


「だがお前は自分の運命さえ跳ね除けられるのだな。お前をなんとか自立させようと家を追い出したが、父さんが間違っていたようだ。すまなかった」


 父さんは頭を下げた。


「別に怒ってないからいいよ」


 父さんが俺のためを思って行動しているのは知っていたし。

 そうじゃなきゃ、家を追い出すとき金を一切渡さないだろう。


「そうか、ありがとう」


 頭をあげて微笑んでいるのが目にうつる。

 久しぶりに見た父さんの笑顔だ。


「それで、どうやってアベルは魔術を行使したんだ?」


 父さんは話を切り替えるようにして、そう口にした。

 ふむ……どこまで話を開示すべきか。全部を話すとなると、原初シリーズに矛盾があったことまで説明しなくてはいけなくなる。

 異端者か。

 妹の言われた言葉が頭に過ぎる。

 父さんのことは信頼している。仮に全部を話しても、俺を異端者と断罪するなんてことはないだろう。

 けど、下手に話をして面倒事につながるのは避けたい。

 今は〈賢者の石〉の生成をするための研究に集中したい。

 そのために、面倒事は起こさない方が無難だろう。


「魔力が発現した」


 だから俺は嘘をつくことにする。


「そ、そんな馬鹿な……っ」


 驚きのあまり父さんは立ち上がる。


「だが、アベルはずっと魔力がゼロだっただろ」

「どうやらゼロではなかったらしい。限りなく少ないけど、自分にも魔力があった。だから、少ない魔力量でも不便なく魔術が扱える理論を構築した」


 実際、『科学の書』に書かれた理論を用いたことで、魔力量を少なくすることに抑えたわけだし、間違ったことは言っていないか。


「そうか……お前は天才だったんだな」


 

「無事、父さんは納得しててくれたみたいだね」


 父さんとの話し合いが終わって、部屋を出るとそこには妹のプロセルが立ち尽くしていた。

 どうやら俺たちの会話を壁越しに勝手に聞いていたようだ。


「もしかしてお兄ちゃんの心配してくれたのか?」


 わざわざ立ち聞きしていたということは、そうとしか考えられない。


「きもっ」


 短くかつ辛辣にそう言い放った。

 流石に傷つくんだが。


「待っていたのはアベルお兄に一つ言いたいことがあったからよ」

「言いたいことって……」


 なんだろう? と思い首をかしげる。


「学院で私に話しかけないでね」

「は?」


 いやいや、せっかく兄妹揃って同じ学院通うというのにそれはないだろ。


「ギルバートって名字はありきたりだし、なにも言わなければ私たちのこと兄妹だと思う人いないはずよ。私たちは偶然同性の赤の他人ってことにするわよ」

「いや、なんでそんなことをする必要あるんだよ」

「アベル兄のこと知られたら私の評判落ちそうだから。アベル兄、学院で悪目立ちしそうだし」


 なんでそんなこと断言できるんだよ。


「俺はプロセルとせっかく同じ学院に行けるんだから、できれば一緒にいたいけどな」

「そういうとこがキモいっての」

「……うっ」


 さすがに言い過ぎだと思うんだが。


「それじゃあ、そうことだから。よろしく」


 言いたいことを言い終えたって感じで、プロセルはその場を立ち去る。

 俺は妹のことを大切に思っているんだけどな。中々、そういう思いは伝わらないみたいだ。


 

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