―22― 入学

 プラム魔術学院の講堂にて新入生が集められていた。

 特に変わった催しがあるわけではなく、さっきから人が代わる代わる壇上で話している。

 よくこんな退屈な話を黙って聞けるもんだな……。

 周囲にいる他の生徒は真面目に話をしているのを見て、そんなことを考える。

 今、壇上では背の高い男の人が喋っているが、だからどうしたというのだろう。

 話している内容はありきたりで平凡で中身がない。だから、内容が全然に頭に入ってこない。

 せっかくなので、視線をキョロキョロさせて妹の姿をないか探してみる。見当たらない。

 仕方ないので、天井の模様を見て過ごすことにした。

 早く終わらないかな……。


 

 無事入学式が終わると、それぞれの教室に向かえとのことだった。

 どこの教室かは掲示板に貼り出されているらしい。


「俺はDクラスか」


 自分の名前を見つけてはそう独りごちる。

 クラスはAからDの全部で四クラス。

 ちなみに妹はAクラスだった。

 同じクラスだったらよかったなと思う反面、妹には「話しかけるな」と言われているからな。違うクラスでよかったかもしれない。

 俺は自分の教室に向かおうとして――


「見つけたわ!」


 随分と甲高い声だ。

 鼓膜にまで響いた。


「ちょ、あなたよ、あなた。待ちなさい!」


 ガシッ、と手首を掴まれる。

 どうやら話しかけられたのは俺だったらしい。


「えっと、なんですか……」


 俺はそう言いつつ振り向く。

 赤毛の入ったツーサイドアップの髪が目に入った。

 どこかで見た気がするが、思い出せん。


「あなたのせいで、Aクラスの実力がある私がCクラスになってしまったじゃない!」


 なにを言っているんだろう、この人は。


「AでもCでもどっちでもいいと思うが」

「なにを言ってんのよ! この学院はAクラスで卒業できたかどうかで評価が天と地ほどの差がつくの!」

「はぁ」


 察するに、この学院は成績によってクラスが決められているらしい。

 俺の妹は流石というべきか一番優秀なAクラス。

 対して俺はDクラスか。

 魔力量がゼロだったせいかな。

 それが足を引っ張ったのかもしれない。


「自分の落ち度を俺に八つ当たりしないでくれ」

「するわよ! あなたに負けなかったら、私は今頃Aクラスだったんだから!」


 俺に負けた。その言葉を聞いて、やっとこいつのことを思い出す。


「お前、受験のときに俺に大口叩いたくせに、なにもできないで無様に負けたやつか」


 確か悪魔降霊をしていたやつだ。

 名前は……思い出せん。


「なっ……な、な……っ」


 なぜか彼女は顔を真っ赤にさせていた。

 そして、


「さ、再戦よ。再戦! あれは私が実力を出せなかっただけで、ホントだったら私が勝ってたんだから! だから私と再戦しなさい!」


 彼女は人差し指を立ててそう宣言した。


「おい、あいつらなにやってんだ?」

「まだ授業も始まってもないのに喧嘩かよ」


 周りにいた生徒たちがザワザワとしだす。

 これだけ大声で喋っていたら注目されるのは当然か。


「なんでお前再戦しなくちゃいけないんだよ」

「ふんっ、そんなの私が最強だってことを証明するためよ!」


 くだらない。

 なんで、このなのに付き合わなくちゃいけないんだよ。


「ちょ、待ちなさい! な、なんで逃げるのよ!」


 俺は彼女の言葉を無視してDクラスに向かう。

 それでも彼女は後ろからなにかを言っていたが、教室に入ってしまえば中まで追ってくることはなかった。

 教室の中は、ほとんどの生徒がすでに集まっているのか、席はまばらにしか空いていない。

 席は自由に座っていいのだろう、と判断をして空いていた席に座る。


「あ、アベルさんお久しぶりです」


 前に座っていた女子生徒が俺のほうに振り向き、会釈する。

 銀色の髪の毛の生徒だ。

 ふむ……お久しぶりと言っているということはどこかで会ったのだろうが、思い出せないな。


「誰?」


 失礼を承知でそう聞いた。


「えっ!?忘れたんですか! ミレイア・オラベリアです。あの、寮でお会いしましたよね!」

「………………」


 そうだったか? 全く記憶にないぞ。


「あの、話ししましたよね! 食堂で偶然見かけて、それでお声掛けしたんです!」

「あー」


 そういえば、そうだったかも。印象が薄いから忘れていた。

 魔術に関することなら簡単に覚えられるんだけどな……。


「悪いな、ミレイア。同じクラスに知り合いがいて嬉しいよ」

「はい、私も同感です! これからもよろしくお願いしますね!」


 ふと、そんな会話をかわしていたらガラリとドアが開く。

 それまでざわついていた教室が静かになった。


「今日からお前らDクラスを担当することになったセレーヌ・バンナだ。今後ともよろしく」


 入ってきたのは女の教師だったらしく、壇上にてそう挨拶をした。

 特徴といえば、艶のある黒髪を後ろでまとめていることか。教師という職業柄だからなのか、女にしては気の強そうな印象を受ける。


 それから先生による学院の説明が始まった。

 退屈だった。

 魔術の講義なら、多少興味を持って聞けそうなんだけどな。

 退屈で仕方がないので、俺は『科学の原理』を机に開いては没頭していた。


「あ、アベルさん、このままだと置いていかれますよっ」


 肩を揺さぶられる。

 何事かと思い、本から視線をあげた。


「やっと気がついてくれた。アベルさん、読書に夢中で全然私の声届かないんだもん」


 教室を見ると生徒たちが立ち上がっている。

 どこかに移動するらしい。


「助かった。声をかけてくれなかったら一人取り残されるところだったよ」


 俺の肩を揺さぶってくれた生徒にお礼を言う。

 それで、


「お前誰だっけ?」

「み、ミレイアですよ!?もう私のこと忘れたんですか! 流石に酷いですよ」


 ミレイアがその場で慌て出す。

 今のは冗談だったのだがな。

 流石にこの短時間でミレイアのことを忘れるはずがない。


「アベルさん、本当に私のこと忘れたんですか! どんだけ私印象ないんですか!」


 俺には妹以外の同年代の話し相手がいなかったからな。

 友達との会話に慣れてない。

 冗談の一つでも言えばいいかと思ったが、どうやら失敗したようだ。


「すまんな、今のは冗談だ」

「ほ、ホントですか!?ホントに冗談なんですか?」


 なぜか信じてもらえてないようだ。

 まぁいいかと思い俺は他の生徒たちを追いかけた。


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