魔力ゼロの最強魔術師〜やはりお前らの魔術理論は間違っているんだが？〜

―２９― 決闘

「俺はいつでもいいですよ」

　対面にいるバブロがそう言った。

　俺たちは決闘をするために野外に出ていた。

　ちなみに生徒会や招かれていた一年生たちも周りで見ている。

「アベルくんがんばってくださいね～」

　ひらひらと手を振っている生徒会長が目に入る。

　この決闘で俺は勝つ必要がない。

　いや、むしろ負けたほうが都合がいいか。

　Ｄクラス相応の実力を出せればいいだけで、負けたほうが生徒会に入らない理由にもなりそうだ。

「なら、俺からいかせてもらう」

　そう言って俺は手を前に向ける。

　窒素や重力を操る魔術は封印しよう。

　今後、俺の魔術理論が通常と違うことがバレないためにも特殊な魔術は使わないほうが無難だ。

　やるなら魔術師なら誰でも扱える基礎魔術がいい。

　ならば――

「〈氷の槍（フィエロ・ランザ）〉」

　氷の槍を形成して、それをバブロめがけて発射する。

「そんな基礎魔術を使ってくるなんて！　俺も舐められたものですね！」

　魔術師にとって〈氷の槍（フィエロ・ランザ）〉は〈火の弾（ファイア・ボール）〉と同じくらい基礎魔術と見られている。

「ならば、おもしろいものを見せてやりますよ」

　バブロがそう言いながら手を伸ばして――

「〈消去（コンセレイション）〉!!」

　と、唱えた。

〈消去（コンセレイション）〉。

　相手の魔術に全く正反対の性質を与えることで、その魔術を打ち消す魔術。

　少しでも読み間違えると失敗するため、〈消去（コンセレイション）〉は扱いが難しいとされる上級魔術に分類される。

　恐らくバブロは〈氷の槍（フィエロ・ランザ）〉のような基礎魔術なら成功すると踏んだのと、生徒会にアピールしたいという一心で〈消去（コンセレイション）〉を唱えのだろう。

　だが――

「――え？」

〈氷の槍（フィエロ・ランザ）〉は打ち消されることなく、バブロの脇腹を貫いた。

　俺の〈氷の槍（フィエロ・ランザ）〉は通常のと、根幹からして魔術理論が異なるからな。

　打ち消せるわけがない。

「な、なんで……？」

　バブロはわけわからないという具合に地面に手をつける。

　……しかし、〈消去（コンセレイション）〉を使ってくるとは。

　念の為、〈氷の槍（フィエロ・ランザ）〉を急所から外しておいてよかった。

「おい、立ち上がれよ。まだ勝負は終わってないだろ」

「Ｄクラス風情が。馬鹿にしないでください」

　バブロは苦虫を噛み潰したような顔をする。

　まだやる気はあるようだ。

　勝ちたくない俺としてはそうでないと困る。挑発したかいがあった。

「〈氷の槍（フィエロ・ランザ）〉」

「〈消去（コンセレイション）〉!!」

　は……？

「ガハッ」

〈氷の槍（フィエロ・ランザ）〉がバブロの体を貫く。

「くそっ、なんで打ち消せないんだ……ッ」

　いや、諦めろよ。

〈消去（コンセレイション）〉なんてまどろっこしい方法使わなくても〈氷の槍（フィエロ・ランザ）〉を防ぐ方法なんていくらでもあるだろ。

「お前、豪語していたわりに大したことないんだな」

「いつもなら打ち消せるんです。今日は調子が悪いみたいで……」

「調子悪いって、ダサい言いわけだな」

「うるさいっ、Ｄクラスが俺を馬鹿にするなっ！　まだ俺は本気を出していない！」

「なら、その本気とやら見せてくれ」

「ああ、今見せてやるさ！」

　よし、うまく煽ることに成功した。

　このまま〈消去（コンセレイション）〉を使われると勝ってしまうからな。

　あとは、うまく攻撃を受けて気絶してしまえば終わりだ。

「〈引き寄せ《アトレイア―》〉!!」

　そう言うと同時、一本の両手剣が空から振ってきた。

「ただの剣ではありません。戦士の魂が込められた魔剣です」

「へー、おもしろいな」

「今すぐ、笑えなくしてやりますよ」

　バブロが地面に突き刺さった剣を引き抜く。

「〈反発（レクルシオン）〉」

「は――？」

　次の瞬間、目の前まで距離を詰められた。そうか、足元と地面を反発させていっきに距離をつめたか。

「〈氷の壁（フィエロ・ムロ）〉」

　なんとか〈氷の壁（フィエロ・ムロ）〉で剣を防ごうとする。

　ズバッ！　とあまりにも簡単に〈氷の壁（フィエロ・ムロ）〉が真っ二つに斬られた。

「え――？」

　普通の剣なら、〈氷の壁（フィエロ・ムロ）〉を斬るのは困難なはず。そうか、これが魔剣の力か。

　俺は倒れるようにしてなんか体を後方に仰け反らした。

　間一髪、直撃を避けられた――

「遅いっ！」

　すでに剣の柄が俺の腹を突こうとしていた。

〈雷撃（ライヨ）〉を使えば防げるか――？

　いや、勝つ必要ないんだったな。

　グフッ、と柄が腹を強く突いた。

　同時に、俺の体は宙を吹き飛んだ。