―81― 前触れもなく
シエナが処刑された俺が偽物であることに、なぜ気がついたのかわからない。
だが、そのことに気がついた以上、地上に落下した俺の死体も偽物であると気がつくのは時間の問題だ。
だから、できればそのことに気がつく前に、アントローポスの霊域〈
そんなわけで早速、俺は霊域の外に出た。
といっても、自分一人だけではなく、霊域内にあるたくさんの鉄の物体を〈
霊域の外に出ると、宙に放り出されたかのような形になる。
恐らく、シエナの霊域〈
俺には〈
恐らく、俺の死体を探しに地上に確認しにいったはず。
ならば、自然の法則に従って、墜落するように地上まで一気に到達してしまおう。
そう決意した俺は〈
「見つけた」
やはり読みどおり、シエナは地上に降り立ち死体を確認していた。
ふと、シエナはこっちを見上げる。
気がつかれたか。
不意をつくつもりだったが、それは許してもらえないらしい。
「〈
だが、位置エネルギーにより加速した大量の鉄の塊を受け止められるかな――。
「〈
シエナはそういって、魔法陣によって構築された結界で身を守る。とはいえ、こちらのほうが強度は上らしい。
結界をなんとか維持しようとシエナは苦悶の表情を浮かべていた。
〈
だから、何度も何度も叩きつけるよう動かした。
パキッ、と結界に割れ目が入った。
ちゃんと効いてはいるようだな。
「それにしても、なんで天使が学院で生徒なんてやっているんだ?」
そう言いながら、俺は鉄を磁力で再び操り、攻撃を繰り返す。
すると、シエナは結界を用いて防御する。
「そういう命令だから」
「なら、俺を偽神と告発したのも?」
「そう命令」
「俺と猫カフェ一緒にいったのも命令か?」
「あなたを探るように言われてたから、その一環」
「そう言われると悲しいな。俺はあれ、意外と楽しかったのに」
「……そう」
と、シエナはどうでもいいとばかりに頷く。
命令に愚直に従う姿は、感情のない機械仕掛けの人形のようだ。
だが、猫をかわいがっていたあのシエナは感情の赴くままに過ごしていたように思えるが。
そんなこと、考えても仕方がないか。
俺は目の前の外敵を退けることを考えればいい。
そう思って、鉄の塊を振り上げた瞬間――。
霊域に割れ目が入った。
「は――?」
驚いたのは俺だけではなかった。シエナも唖然とした表情で、空を見上げている。
どうやらシエナにとっても霊域が壊れるのは想定外のことらしい。
霊域が壊れたことによって、俺とシエナは当然のように外の世界に放り出される。
そこは決勝の会場だった。
決勝戦を観戦していた観客たちは俺たちが突然、現れたように見えただろう。
だが、誰もが俺たちに目もくれなかった。
見ていたのは遥か彼方――。
視線の先には、巨大な赤きドラゴンが鎮座していた。
そのドラゴンの名は「叡智」ヌース。
紛う事なく偽神の一体だ。
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