―17― 戦闘後

 初めての敗北。

 しかも妹に負けた。

 とはいえ、そんなに悔しくはない。

 まだ魔術を使えるようになってから日が浅い割には、中々上出来だった自分で自分を評価する。


「目が覚めたみたいね」


 目を開けると妹のプロセルが座っていた。

 どうやら気を失った俺はベッドで寝かされていたらしい。


「怪我が一切見当たらないな」


 起き上がった俺は自分の体を見て、そう言う。


「知っているでしょ。この学院には怪我が治すための加護があることを」

「確か、アゾット剣だっけ」


 アゾット剣。それは賢者パラケルススの聖遺物とされている。

 このアゾット剣が魔術学院にあるおかげで、ここの生徒たちは怪我が治りやすいといった加護を得られやすい。

 そのおかげで、生徒たちは存分に魔術戦をできるわけだが。

 そして、そのアゾット剣こそ、俺がこの学院に通いたいと思う理由でもあるわけだが……。


「色々と言いたいことあるけど、ひとまず合格おめでとうアベルお兄」

「ああ、プロセルこそ合格おめでとう」


 俺たちは互いに合格を賞賛しあった。


「私は一度家に帰るけど、アベル兄はどうする?」

「帰りたくても勘当されているしなぁ」

「入学式は二週間後だけど、入寮自体は手続きすればすぐできるし、そのほうがいいんじゃないの?」

「そうなのか。なら、そうするよ」

「あと、このことはお父さんに報告するわ。別にいいでしょ?」

「このことって、俺が合格したことか。まぁ、報告は構わないが」


 これで父さんも俺のことを少しは見直してくれたらいいのだが。


「それと、どうやって魔力ゼロのお兄ちゃんが魔術を扱っているのか。その仕組を教えてほしいのだけど」


 と、プロセルは問うてきた。

 やはり聞かれるか。

 さて、どうやって乗り切ろうか。

 以前、妹と交わした会話を思い出す。

 その際、異端者と疑われ、肝を冷やした。

 だからこそ、素直に原初シリーズと矛盾する理論を発見しました、というわけにもいかない。

 そんなことを言ったら、また異端者と疑われそうだ。


「どうやら俺、魔力がゼロじゃなかったようだ」

「……どういうこと?」

「どうやら魔力の測定が間違っていたみたいで、実は魔力が使えたんだよね」

「へー」


 と、妹が口にする。


「納得できていないって風に聞こえるが」

「納得できるわけがないでしょ。十四年魔術を使えなったアベル兄がなんで急に魔術を使えるようになるわけ」

「それは、その、色々あったんだよ……」


 残念なことにうまい言い訳が思いつかなかった。


「はぁ、一応聞くけど異端者になったわけじゃないよね?」


 やはり、そう疑われるか。


「それは違うと、この前否定しただろ」

「疑うのは当然よ。過去の異端者には、非魔術師なのに異端の神の力を借りることで、魔術のような力を振りまいた者もいるわ。アベル兄がそうじゃないかと疑うのは仕方がないことだと思うけど」


 そう言われるとなんとも反論しがたい。


「よく聞け、プロセル。実を言うとお兄ちゃん天才だったんだ」

「はぁ?」


 と、プロセルが冷たい視線を送ってくる。なに言ってんだ、こいつは? とでも言いたげだ。とはいえ、気にせず説明を続ける。


「だから、魔力量が少なくても発動できる魔術構築に成功した。具体的にいうと、魔石にある魔力だけで補える」

「そんなの信じられないんだけど」

「そう言われても、事実だしな」

「まぁいいわ。で、どんな画期的な魔術構築があれば、そんなことができるのかしら?」

「それは秘密だ。あまり他人に自分の魔術を安々と伝えるわけがないだろ」


 うん、魔術師の多くは自分の魔術成果を他人には秘匿するものだ。実際には説明しようとしたら、原初シリーズを否定しなくてはいけないため、説明しようにもできないってのが正しいが。


「ぬぅ」


 と、妹は口をすぼめては押し黙っていた。

 魔術を安々と他人に披露しないという点には反論のしようがないからだろう。


「まぁ、いいわ。けど、1つだけ忠告。今日のような戦い方を続けるのは推奨しない。息ができなくなる風みたいな、あまりにも既存の魔術理論からかけ離れている魔術ばかり使っていると、異端者と疑われるきっかけを作ることになるかもしれないわ」

「まぁ、それは確かに」

「だから、もっと一般的な魔術を使うべきだと思うわ。使えないわけじゃないんでしょ?」

「わかった。肝に銘じておく」


 確かに、もう少し慎重になるべきだったかもしれんと、俺は反省した。


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