―56― アスモダイ

「アベルくん、全力でやって構いません。恐らく、ちょっとやそっとでは死にませんから」


 ミレイアがそう俺に伝えつつ、「〈召喚エヴォケーション――フルフル〉」と口にして、柔らかい球体のような悪魔を召喚する。

 俺は俺で、戦う準備を始める。


「あなた方は、この娘の配下かなにか?」


 アスモダイは自分の頭を指差してながら、俺たちにそう問うてきた。

 つまり、俺たちはアウニャの配下かどうか聞いているらしい。

 なぜ、俺たちを配下だと思ったのか理解に苦しむが、ひとまず否定しておく。


「いや、違うな」

「そう。でも、気に入らない。人間ごときが、私に対して好戦的な目で見てくるのが。まるで、私に勝てると勘違いしているみたい」

「お前と戦わないで済むなら、こっちとしてもありがたいんだが」


 どうやらいきなり攻撃してくるほど、凶暴ではないらしい。少しは会話の余地がありそうだ。


「それは悪魔を舐めすぎかも。悪魔というのは人間に嫌がらせをするのが仕事なの。わかる?」

「そうか、じゃあ、やっぱり戦うことになるのか?」

「うん、そうかもね」


 飄々とした態度でアスモダイは肯定した。


「〈気流操作プレイション・エア〉」


 先手必勝。

 学院では特殊な魔術を使って、異端と勘違いされたら困るから封印していたが、この場ならミレイアにしか見られていないから気にせずに使っても構わないだろう。

 窒素を操作して、呼吸困難に陥らせる。

 俺の中で最も安定した必勝法。


「く……っ、がぁ……っ」


 うまいことアスモダイは呼吸困難に陥る。


「はぁッッ!!」


 だが、次の瞬間、アスモダイを中心に爆発を伴った衝撃が走る。


「まずい……ッ」


 この距離では防御が間に合わない。

 気がつけば、俺は爆発に巻き込まれ後方に吹き飛ばされた。

 まさかアスモダイが自分を巻き込むような爆発を発生させるとは。ふと、見るとアスモダイは無傷の状態で立っていた。

 ちなみに、ミレイアは増殖させたフルフルでうまく防御していたが、無傷とはいかなかったようでダメージを受けている。


「〈氷の槍フィエロ・ランザ〉」


 すかさず俺は次の攻撃を繰り出す。

氷の槍フィエロ・ランザ〉の多重詠唱。1つの詠唱で複数の氷の槍を生成させる。


「ふんっ」


 アスモダイがそう口にするだけで、氷の槍が全て爆散する。


「……は?」


 中には、俺の至近距離にあった氷の槍まで爆散したため、それに巻き込まれてしまうはめになった。


「脆いね、人間は。これだから人間には従いたくないんだよ」


 気がつけば、近くにきたアスモダイに首根っこを掴まれて持ちあげられる。


「アベルくん……っ!」


 助けようとしたミレイアが後方からフルフルの雷撃で攻撃しようとする。だが、身を守るようにアスモダイが爆発を発生、ミレイアを吹き飛ばした。


「さて、どうしようか……?」


 俺を持ち上げたアスモダイはそんなことを言いながら、俺に語りかける。殺すかどうか悩んでいるってところだろうか?

 にしても、アウニャのやつはなにをやっているんだろうか?

 体を乗っ取られたまま、アウニャの意識が覚醒する気配がない。早く、この悪魔をなんとかしてほしいのだが。

 まぁ、いい。

 まだ俺には奥の手が残っている。


「〈霊域解放――混沌の境域カオス・アーレア〉」


 瞬間、足元に霊域へのゲートが開く。

 当然、アスモダイもそのゲートに巻き込まれる。

 さて、第二ラウンドにいこうか。


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