―79― 任務完了
天使シエナによる〈霊域解放〉によって、世界は塗り替えられた。
偽神のアントローポスの霊域とはまた違う。
地面がちゃんとあり、空もある。
それ以外はなにもないが、パッと見た感じ現実の風景とそう差異はない。
アントローポスの霊域は精神にしか作用せず、物体には作用しなかったため、いくら霊域内で殺されても精神を保ちさえすれば死ぬことはなかった。
ただ、それはアントローポスの霊域〈
恐らく、この霊域内で死ねば現実でも死ぬ。
「はい」
目の前のシエナがそう言って、両手を叩いていた。
「は?」
瞬間、地面がなくなっていた。
同時に空に投げ飛ばされる。
唐突に空に投げ飛ばされた俺はバランスをとろうと体を動かす。真下を見ても地面が見える気配がない。
さっきまでは地面に立っていたのに、突然、宙にいる。
地面の位置を変えられるのが、この霊域の特長ってところか。
「〈
このまま落ちるのはマズいと思い、重力を操って宙にとどまろうとする。
シエナの方を見ると、天使の羽を伸ばして空を羽ばたいている。
「〈
そして、腕を振るったと思ったら、金色に輝く剣のようなものが腕から生えていた。
ブワッ、と風が舞う。
「――は?」
放心状態になったのは理由があった。
まるで瞬間移動をしたかのように、遠くにいたはずのシエナが目の前にいたのだ。
瞬間移動ではなく超高速で移動したと確信できたのは、シエナが移動した際に巻き起こったであろう突風が吹いたから。
そして、気がついたときには〈
斬り裂かれた俺は当たり前のように出血し、地面へと墜落しようとしていた。
まずいな。
恐らく、この怪我は致命傷だ。
俺は怪我を治すような治癒魔術を使うことができない。
それに、治せたとしても、天使シエナの動きに対応できなければ、また同じような怪我をするだけ。
万事休すか。
よし、諦めるか。
◆
シエナは翼で宙に停止しながら、真下を見下ろしていた。
たった今、斬り裂いたアベルが落下していった。
この高さから落ちたら死ぬのは必至。仮になんらかの魔術で落下の衝撃に耐えられたとしても、あれだけの深手を負わせれば生き抜くのは難しいだろう。
とはいえ、死体を確認する必要はあるはずだ。
死んだと思った相手が実は生きていたなんてことは、この世界ではよくあることだ。
それは往々にして、死体を確認しなかったせいで起こるのだ。
だから、シエナは両手をパチンと叩いた。
次の瞬間には、シエナは地面の上に降り立っていた。
地面の高さを自在に操る。
それが、この霊域の特性だ。
シエナは、この世界の地面の高さを自在に操ることができる。
「あった」
目の前に、落下の衝撃で砕けたアベルの肉体が落ちていた。
頭は割れ、手足はおかしな方向に曲がっている。
よく確認しなくても、これは死んでいる。
念の為、足で蹴り飛ばしてみる。
すると死体特有の重みがつま先を通じて感じる。
「任務完了」
短く、シエナは言葉をそう発した。
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