―36― 決闘

「いいか、お前らのような落ちこぼれとこっちは手を組む気なんてないからな」


 外に出て、ビクトルが開口一番にそう口にした。

 なるほど、そういった事情で非協力的だったのか。

 確かに、自分より弱いやつと手を組みたくないって気持ちは理解できなくもない。共感はできないが。


「なぁ、こいつの魔力量はいくつなんだ?」


 ビクトルがそう豪語するからには、さぞ優秀な魔力量を保有しているんだろう、と推察しミレイアに聞いてみる。


「えっと、確か三五ですね。下から三番目だった気がします」

「お前も落ちこぼれじゃん」

「う、うるせーっ、殺すぞッ」


 事実を指摘してやっただけなんだがな。

 そんな噛みつかなくても……。


「とにかく、てめぇなんかと協力するつもりねぇからなっ!」

「〈氷のフィエロ・ランザ〉」

「〈土の防壁バリーラ〉」


 不意を狙ったが、防がれたか。


「おい、いきなり攻撃してくるなよ! 卑怯にもほどがあるだろうがッ!」

「俺たちを落ちこぼれと罵るんだ。俺の攻撃ぐらい簡単に防げるんだろう?」

「ああ、そうだよッ!」

「なら、約束しろ。次の攻撃防げなかったら、俺に協力してもらう」

「チッ、ああいいさ。てめぇの基礎魔術ぐらい防ぐの屁でもねぇんだよ!」


 よし、うまく口車にのせることができたか。

 あとは――勝つだけだ。


「〈氷のフィエロ・ランザ〉」

「はっ! また、その基礎魔術か! そんな基礎魔術で俺を倒せると思うんじゃねぇぞ、ゴラァッ!」


 残念ながら、ただの〈氷のフィエロ・ランザ〉ではないんだが。

 ――多重詠唱。

 一つの詠唱で同じ魔法陣を複数発動させる術。

 俺は〈氷のフィエロ・ランザ〉を一つの詠唱のみで、三〇個同時に展開させていた。

 初めてやったが意外と簡単だな。

 そして、展開した〈氷のフィエロ・ランザ〉を一斉にビクトルに放ってやる。


「――は? なんで、そんな高等技術を魔力ゼロのお前がッ」


 複数詠唱であることに気がついたビクトルが目を見開く。

 ふむ、複数詠唱って高等技術だったのか。

 それは知らなかった。


「〈土の防壁ティエロ・ムロ〉!」


 ビクトルは慌てて身を守るが、30の〈氷のフィエロ・ランザ〉を守れるはずがなかった。


「勝ったな」


 仰向けになって気絶しているビクトルを確認して、俺はそう口にする。


「アベルくん、もう少し他にやりようがあったと思います」


 呆れた口調のミレイアがいた。


「そうか?」


 と、俺は首をかしげる。

 この方法が最も適切だったと思うけどな。



 ◆

 


 気絶したビクトルを外に放置するわけにもいかないので、保健室まで運んだ。


「これで本当に協力してくれますかね……」


 横になっているビクトルを見てミレイアがそう呟く。


「まぁ、それは起きてから確かめるしかないな」


 もしダメだったら、またそのとき考えたらいい。


「次はえっと……」

「シエナ・エレシナちゃんですよ」

「ああ、そうだったな」


 中々、人の名前を覚えるのって難しい。


「まさか同じ手を使うつもりじゃないですよね?」

「やっぱりマズいか?」

「女の子相手にいきなり魔術放ったら、一生アベルくんのこと軽蔑します。って、本当にやらないですよね?」


 念を押すようにミレイアが俺の顔を窺ってくる。

 もしかすると俺はあまり信用されていないらしい。


「流石にマズいことぐらい理解している」


 これでも最低限の常識ぐらい身につけているつもりなんだが。


「なら、いいんですが……。けど、具体的にどうしますか?」

「そうだな……」


 手に顎を添え、考える。


「やっぱり強硬手段とか?」

「やめてください。私がなんとかします」


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