魔力ゼロの最強魔術師〜やはりお前らの魔術理論は間違っているんだが？〜

―８８― 結末

「え……？」

　プロセル・ギルバードは困惑していた。

　爆音と閃光と共になにかが偽神ヌースに直撃した。そう思ったときには、偽神ヌースの頭部がなくなっていた。

　なにが起きたかのか微塵も理解できない。

　偽神ヌースが突然町に顕現してからは、町はパニックで溢れかえった。

　多くの住民たちは逃げようとしたが、逃げ遅れた者が大半だった。

　偽神ヌースが移動するだけで幾重もの住宅が倒壊し、口から炎を噴けば、多くの住宅が燃え盛る。

　そんな状況下で、逃げることができる住人なんて極わずかだった。

　中には偽神ヌースに応戦しようとする魔術師たちもいた。

　だが、あまりにも突然の襲来に指揮系統はバラバラ。とはいえ、協力しあったところで、偽神ヌースをとめることができる魔術師なんて存在しないのだが。

　そんな状況下、プロセルのとった行動は逃げ遅れた住人を一人でも助けることだった。

　倒壊した建物の下敷きになった住人を救い出ししたり、怪我をして動けなくなった子供を背負って逃げようとしていた。

　魔術師として生まれた以上、こうすることが責務だと感じたから。

　そんな最中、何者かの攻撃により、偽神ヌースが粉砕した。

　プロセルは呆然と立ち尽くしていた。

　なにが起きたか、理解できない。

「おい、誰かいるぞ！」

　ふと、誰かがそう叫んだ。

　見ると、遠くに魔術師らしき人物が空高く浮遊していた。

「あの人が倒してくれたのか？」

「俺、見てたぞ！　あの人から光線のようなのが出る瞬間を」

「そうだ、俺も見ていた」

「やはり、あの方が一撃で倒したんだ」

「救世主だ」

「救世主に違いない」

「我々を助けてくれた救世主様だ！」

　周囲にいた人たちは一様に、空に浮遊している人を崇め始めた。

　皆が突如現れたヒーローの存在に興奮していることがありありとわかる。

「アベル兄……？」

　プロセルは無意識のうちにそう口にしていた。

　なぜ、そんなことを口にしたのか、自分でもよくわからない。

　あの救世主が正体が自分の兄なんじゃないかという予感が急に頭の中に舞い降りたのだ。

　ありえない。

　自分の兄はつい最近、処刑されたはずだ。

　だから、あの救世主が兄のわけがない。

「おい、落ちたぞ！」

「救世主が落ちていくぞ！」

　その言葉通り、空高く浮遊していた救世主が力が抜け落ちたかのように、地面へ落下し始めた。

「急げ！」

「このままだと、落ちて死ぬぞ」

　そう言って何人かが、救世主が落下した方角に向けて走り出す。今から走ったところで、間に合うわけがないのに。

　それでも、多くの人間がつられるように、救世主の元へと集い始めた。

　気がつけば、プロセルも自然と駆け足になっていた。

　もしかしたら、あの救世主の正体が兄なんじゃないかという淡い期待を背負いながら。

◆

「異端認定から一転、偽神を倒した英雄ね」

　そう呟いたのは学院の窓から外の光景を見ていたユーディットだった。

　ユーディットは突然現れた偽神の対応に生徒会長という立場から追われていた。

　具体的にいうと、アゾット剣を外に持ち出そうとしていた。

　アゾット剣。

　存在するだけで、人々に加護を与える存在。

　このアゾット剣のおかげで、学院にいれば、生徒たちは加護を得ることができる。

　具体的には致命傷を受けづらくなったり、自然治癒力が強化されたりといった効果がある。

　とはいえ、アゾット剣の加護は万能ではない。

　偽神ヌースが攻撃すれば、いくらアゾット剣の加護があろうとも即死だろう。

　とはいえ、全く意味をなさないわけではない。

　近く、偽神ヌースはこの学院を侵略するだろう。だから、それまでに、アゾット剣を外に持ち出し、被害を受けた人たちのために役立てようと思っていた。

　ゆえに、学院でも数人しか方法を知らないアゾット剣を持ち出せないように施されたトラップ式の魔法陣の解除を行なっていた。

　その最中、偽神ヌースが討伐されたという一報を受けた。

　討伐したのがアベルだと瞬時にわかった。

　それ以外に、討伐をできそうな人物に心当たりがなかったから。

　それから、ちょっとしたパニックが起こった。

　といっても、偽神ヌースが出現したパニックに比べたら大したことはないが。

　単純に、誰が偽神ヌースを倒したのか知りたい人たちが学院に押し寄せてきたのだ。

　アベル本人は気絶しているらしく、動く気配はなかった。

　そのために、群集に巻き込まれないようにアベルを保護する必要があった。